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【八味地黄丸】尿漏れ以外にもこんなに使えます

八味地黄丸(はちみじおうがん)、処方の名前を知らなくても大鵬薬品の「ハルンケア」のコマーシャルを見たことはありませんか?

"ししおどし"がカコーン!!と音を立てると同時に、頻尿の文字が。ハルンケアの処方名が八味地黄丸です。高齢者の尿漏れに効果がある、、、ような雰囲気で十数年前はガンガンと売れてました。

3行でまとめると

  • 老化、泌尿・生殖・ホルモンなどの機能低下を「腎虚」という
  • 八味地黄丸は「腎」を補い、年齢相応に回復させる処方
  • 補腎の処方は種類が多く、体質(寒・熱)の違いに注意すること

八味地黄丸の効能効果

八味地黄丸の効能効果を見てみましょう。

八味地黄丸 効能効果

体力中等度以下で、疲れやすくて、四肢が冷えやすく、尿量減少又は多尿で、ときに口渇があるものの次の諸症:下肢痛、腰痛、しびれ、高齢者のかすみ目、かゆみ、排尿困難、残尿感、夜間尿、頻尿、むくみ、高血圧に伴う随伴症状の改善(肩こり、頭重、耳鳴り)、軽い尿漏れ(クラシエ)

尿のことがたくさん書かれていますのでここから「排尿障害の専門薬です」と言われるようになったのでしょうか。それだけでなく慢性腎炎、ネフローゼ、膀胱炎(過敏)、座骨神経痛、椎間板ヘルニア、腰痛、健忘、易疲労など応用範囲の広い処方です。

後ほど説明しますが、漢方の専門家には「八味地黄丸は腎虚を改善する処方」といわれています。漢方での「腎」は腎臓より概念が広くては生命活動全般(ホルモン・生殖・泌尿器)をつかさどります。

植物で考えると「根」に当たる部分です。地上にいると目に見えない部分ですが「根」がしっかりとしないと葉も実も大きく成長できません。そして年月により根が弱ると、地上部分も枯れていきます。

八味地黄丸は弱ってきた木の根に栄養を与えて「元気にしてくれる処方」です。若木ほどイキイキはしませんが、年齢相応に元気になります。例えば飲み屋に行って「いつも元気だね!なに飲んでるの?!」って言われるのが理想です。

八味地黄丸は「生命活動の根幹(腎)」を補います

腎が弱ると何が起こる?

「腎が弱る・腎の働きの低下(老化)」で起こる症状と言えば、

泌尿器系・生殖器系の機能低下・慢性腎炎・ネフローゼ・膀胱炎・前立腺肥大・頻尿・尿失禁・足腰の痺れや痛み・椎間板ヘルニア・糖尿病・高血圧・動脈硬化・自律神経失調症・ED・勃起不全・性欲減退・遺精・不妊症(月経が不定期)・黄体機能不全・浮腫・口渇・健忘・更年期障害

など。もちろん全て起こるとは限りませんよ。こういった傾向です。

八味地黄丸をGoogleで調べてみると、色々な病名で検索されています。ただし同じ腰痛でも「昔からの腰痛」と「重いモノを持ったときの腰痛」では治療法も処方も違ってきます。さらっと八味地黄丸が効果のある症状についてコメントしました。

症状 コメント
腰痛 何となく足腰に力が入らない、力が抜けるという腰痛。十数年来の痛みや古傷など、慢性的な腰痛にも使います。腰を動かすと痛みが走る、という急性の腰痛は使いません。
尿漏れ 日中は大丈夫だけれども夜に尿意で起きてしまう。4~5回以上夜に尿で起きる。他の処方と併用することもあります。
膀胱炎 何となくシクシクする、菌は出てないけれども違和感があるそんな膀胱炎。急性の膀胱炎には使いません。
性機能 今まで元気だったのに最近は性欲が無いな、精力が低下してきたな、という性機能低下に使います。単体ではあまり効果は感じられないことが多いので、他の処方と併用しています。

いかがでしょう?慢性病やなんとなく気になる病気というのがポイントです。

慢性病・老化によって「腎」が弱ります

八味地黄丸は女性に使っていいの?

コマーシャルから「八味地黄丸=高齢の男性」というイメージがありますが、女性にも使える処方です。女性の場合は「(気)血」を消耗していることが多いので、例えば婦宝当帰膠・参茸補血丸・温経湯など、気血を補う処方と併用するといいでしょう。「腎」は食事や不摂生によっても弱りますので、若い人に使うこともあります。

どの程度で効果が出るの?

漢方薬は効果が出るまでに時間の掛かる処方が多いですが、八味地黄丸など補腎の処方はさらに時間が掛かります。○日以内に結果を!と言われることもありますが、○ヶ月という単位の長期戦の処方です。

副作用は?

副作用で多い訴えは「胃もたれ」。店頭では「胃がなんとなく重くて、食欲が無い」といった訴えが時々あります。胃弱の方に多いので①晶三仙や胃を強くする処方を併用する②食後に服用するなどで改善します。

八味地黄丸の構成生薬

八味地黄丸の構成生薬について解説していきましょう。

成分

地黄(熟地黄)・山茱萸・山薬沢瀉・茯苓・牡丹皮・桂皮・附子末

八味地黄丸は名前の通り8つの生薬で成り立ち、八味丸とも呼ばれます。

地黄・山茱萸・山薬は補益作用の強い生薬で、沢瀉・茯苓・牡丹皮は水分代謝を良くし胃腸の負担も軽減します。三瀉三補でバランスのとれた構成です。この6種類の生薬をまとめると「六味丸」という処方になります。

その六味丸に加えて、桂枝(肉桂)で体内の水の流れを整え、桂枝(肉桂)と附子(炮附子)で体の陽気を温めます。ガンガン温めるではなくて、種火を大きくするようなイメージですね。

八味地黄丸は腎を穏やかに補う処方で、やや熱傾向に偏っています(冷えに効く)

瀉火補腎丸と八味地黄丸の違い

アスクドクターを見ていたらこんな質問がありました。「瀉火補腎丸から八味地黄丸に変更したら体調が悪化した」という話です(^-^;;;;

【50代女性からの質問】(前略)瀉火補腎丸も八味地黄丸も六味地黄丸を基としているので、大差はないと思ったのですが、八味地黄丸を飲んだ後から、何故か軽い頭痛や耳鳴りがするようになったような、また、のぼせが強くなったような感じがあります。また便もゆるくなりました。 (後略) アスクドクター(QLIFE)

瀉火補腎丸と八味地黄丸は8種類のうちのたった2つの生薬の違いですが、性質が違ってきます。例えば同じ地黄丸でも寒熱の違いで、差があります。

※あくまでイメージです。もっと色々とややこしいです。

火照るタイプ(腎陰虚)には瀉火補腎丸や杞菊地黄丸が。逆に冷えるタイプには八味地黄丸や海馬補腎丸ですね。火照るタイプをさらに温めたので上のような例になったのでしょう。

腎の陰陽はバランスが大切

冷える・火照るというと真逆のようなイメージですが、バランスの問題で根っこの部分は一緒です。図を書いてみました。腎には腎陰と腎陽があり、うまくバランスを取っています。図の左側が「バランスが整った状態」で正常な状態です。

老化によって腎陰も腎陽もだんだんと少なくなるのですが、どちらかが偏ったのが、腎陰虚であり腎陽虚。この減る(老化)のは年単位でじんわりと進行していきます。

色々と生薬の違いでありますがまず最初はうまくバランスを取るように補腎薬を使うのがポイントです。

こちらのページにも腎を補う(補腎)について詳しく解説しています。

補腎(ほじん)ってどういう意味?

漢方薬局で相談をすると出てくる「腎」という単語。 薬局の先生方はあまりに説明をしすぎて、当たり前のように使ってしまいます ...

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腎の陰虚・陽虚が同時に起こる場合もあります。腎陰陽両虚といいまして、手足や顔の火照り・口渇・イライラ・不眠・寝汗などと一緒に、全体の冷え・冷えた腰痛などが同時に現れます。

他の処方との比較

八味地黄丸が漢代(2000年ぐらい前)に開発されて、そのあと六味丸をベースにした処方が次々と生まれました。六味丸は最初は子供に飲ませることが出来る処方として開発されました。

処方名 ベース
八味地黄丸
桂附地黄丸
地黄
山茱萸
山薬
沢瀉
茯苓
牡丹皮
(六味丸)
+桂枝・附子
六味地黄丸
牛車腎気丸
加味腎気丸
+牛膝・車前子
八仙丸
麦味地黄丸
+麦門冬・五味子
瀉火補腎丸
知柏地黄丸
+知母・黄柏
杞菊地黄丸 +枸杞子・菊花
帰芍地黄丸 +当帰・芍薬
日本では未発売
耳聾左慈丸
耳鳴丸
+磁石・柴胡

腎虚(腎陰虚・腎陽虚)が起きればどうなるのか、もう少し詳しく見てみましょう。

左が腎陰が不足するパターンで、右が腎陽が不足するパターンです。腎の働きの低下は腎陽虚でも腎陰虚でも起こりますので、生殖機能低下・膀胱の機能低下はどちらでも起こります。

八味地黄丸のクチコミ(症例)

60代後半、男性、夜間の頻尿

症例

60代後半、やせ形、男性 主訴:夜間の頻尿・勃起不全・足の冷え

初夏に来局。日中は尿に問題は無いが、夜になると小便に5回ぐらい起きてしまう。そのため寝不足傾向(眠りも浅い気がする)。足が冷えてるな、という感覚もあり。もともと体は熱くなりやすいタイプだったが、仕事を退職してからはだんだんと冷えを感じる。退職後はあまり運動をしていない。足は長時間歩くと痛くなることが多い。(中略)ぼーっとすることが多い。昔は精力もあったのに、勃起不全を感じるようになった。(後略)

夜間の頻尿が一番治したい、できれば勃起不全も・・・、とのこと。男性にとって永遠のテーマですね(^-^;;; 詳しく話を伺いましたら最近寒さに弱くなった。意識としてはまだまだ現役ですが、体がついて行かないこともでてきたらしく・・・。

最近寒さに弱くなった、逆のタイプもありますよ、最近は体が温かくなってきた。これって、腎虚の可能性があります。バランスの崩れですね。

「腎陽虚と瘀血(血行循環不良)」のタイプと考えて「八味地黄丸」と「     」「     」という処方をお渡ししました。1ヶ月2ヶ月目はそれほど変化も無かったのですが、その後、電話があり。日中の尿量が増えて夜の起きる回数が減ったとのこと。冷えもそれほど感じなくなってきたと喜ばれていました。

50代後半、女性、逆上せ、冷え、動悸

症例

50代後半、やや中肉、女性 主訴:逆上せ・頻尿・足腰にある冷え・動悸

秋頃に来局。顔は頬の当たりがいつでも赤く火照っているように感じる。ただ、全身は冷えている。血圧はやや高め。頻尿というほどでも無いが、尿は多い。水のようなものがしゃーっと出てくる。夜になると小便に3~4回ぐらい行ってしまう。動悸を感じることもある(後略)

火照り逆上せがあり更年期のような症状でしたが、尿は清澄で冷えもあります。最近疲れなどもあるようで、腎の陰陽両虚も考えて「八味地黄丸」「      」と2つの処方をお勧めしました。天王補心丹でもいいかもしれません。

  • この記事を書いた人
福田優基

ゆうき先生

漢方を専門に学ぶ薬剤師。大学卒業後、東京・高知の漢方薬局にて漢方を研鑽。漢方薬局の二代目として大阪に戻る。このサイトでは、身近な漢方であるようにと「分かりやすい言葉」で説明するように心がけています。

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