補中益気湯のポイントを解説!注意点や早く治るためのコツも紹介

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は「医薬の王様のようによく効く薬だ」「脾胃を補うことこそ医の王道である」と噂になったことから「医王湯(いおうとう)」の別名もあります。脾胃(≒胃腸)を元気にして気を補充する漢方の「代表的な」処方です。

胃腸のご相談でお話を聞きますと、だいたいの方は補中益気湯を服用した経験があります。ただ、途中で中止してしまうことも多いようです(^-^;;;; そんな補中益気湯、実はコツが必要なんです。

目次

効能効果

補中益気湯の効能効果を見ていきましょう。

体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすいものの次の諸症:虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒 クラシエ添付文書より
消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の次の諸症: 夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症 ツムラ添付文書より

なんとなく、食欲不振や体の弱りを改善するというイメージですね。

補中益気湯は、効能効果の範囲が広い代わりに、漠然としていて分かり難い処方です。胃腸の薬だと思って「食べ過ぎでの消化不良」「逆流性食道炎」に使ってもほぼ効果はないでしょう。

「痔・脱肛・寝汗・多汗症」は胃腸と関係するのか・・・というのも気になりますね。半身不随とかほんとに?!みたいな効能効果もあります。解説していきましょう。

補中益気湯と六君子湯の違い

補中益気湯?六君子湯は服用したことがあるんですが?!

患者さんに補中益気湯を説明すると、こんなこと言われたこともあります。たしかにどちらも胃腸薬・・・の認識ですね。

ただ、図にしていますが、六君子湯と補中益気湯は「人参・白朮・甘草」が共通のベース。「黄耆・柴胡+升麻」を加えて進化したのが補中益気湯です、使い方は全く違います。

補中益気湯はこんな人に使います

補中益気湯は下記の3つのタイプに使うことが多いです。

脾胃気虚:食べたものがエネルギーとして体に入りません。太らない、食が細いタイプ。疲労倦怠感が強く、手足は重だるいです。元気が無くてすぐに疲れます。食後に眠くなります。軟便気味、または慢性の泥状便から下痢です。立ち眩みがあったり、汗をかきやすいです。女性の場合は月経周期が定まらなかったり、経血の色が薄かったりします。

気虚下陥:内臓の筋肉が緩みやすく元の位置に留まることが苦手です。つまり、胃下垂、子宮脱、遊走腎、ヘルニア、子宮脱などで、疲れると悪化します。補中益気湯の黄耆や升麻が筋肉に緊張を与えて引っ張り上げます。

気虚発熱:体力が低下して、熱の放散がうまくいかずに熱が体内に籠もります。微熱・火照り・発汗(寝汗)や疲労倦怠感が生まれます。喉は渇いても、なんとなく冷たいモノよりも暖かいモノを好む傾向があります。

この微熱ですが、腎陰虚・心腎不交などでも起きますので、これだけで補中益気湯だ!と思うと間違えますので注意です。

補中益気湯の副作用・飲み合わせ

補中益気湯を服用する方は「脾胃気虚」タイプが多いため、栄養をうまく取り入れることが出来ません。オーバーフローを起こしています。結構多いのが、胃腸が弱いのにサプリメントをガンガン飲んでいるタイプ。太りたいとか胃を強くしたいとかでサプリメントやプロテインをガンガン追加して胃を痛めています。まず胃腸から治して食養生です。

ご高齢の方で「いまどんなお薬飲まれていますかー?」と尋ねると、鞄から紙袋が出てきます。かかりつけ医から高血圧に制酸剤にコレステロールで、耳鼻科からは眩暈止めて、メンタルクリニックで抗うつ剤に睡眠導入剤に、整形外科からは痛み止めに骨粗しょう症のお薬を・・・その上で、最近胃腸が悪くてご飯が食べられないんですよーという相談だったりします。お薬を選別してもらうよう伝えて、それが終わってから補中益気湯+晶三仙は良いかなと思います。

「自分で胃腸を虐めている方」が多いんですね。イメージは伝わりますでしょうか。

補中益気湯の構成

使われている生薬

補中益気湯は

人参・白朮・黄耆・当帰・陳皮・大棗・柴胡・甘草・生姜・升麻

の10種類の生薬を使っています。

漢方では長い年月の間に細かいバージョンアップがされています。ですので、同じ処方名といえども構成が違うことがあります。「ツムラ」と「JPS」の製剤では処方が白朮から蒼朮になっています。

蒼朮にすることで湿による脾胃の衰えにも使えます・・・が私自身は白朮・蒼朮の違いを体感したことはありません(^-^;;;; 煎じ薬なら体感できるのかもしれません。・・・すごい先生なら違うのかも?!

…湿気が旺盛なために脾胃が不調となり,倦怠感や関節痛,気のうっ滞や胃もたれを生じた場合には,蒼朮の辛味で湿邪を発散…
脾胃が虚弱で湿気に弱かったり,雨などで倦怠感が増して気力が低下したり,寝汗をかいて自汗がみられたり,妊娠中にむくむものには白朮の甘味で脾胃を補い利水を図る…

白朮と蒼朮の使い分けの必要性 漢方薬の構成生薬である「朮」の起源と同名処方の使い分けのポイント

「イスクラ産業」の補中丸では処方の人参が党参に変わっています。党参は人参に比べて穏やかなので、胃腸が弱い・妊娠中・浮腫みやすいというタイプには使いやすいです。補中益気湯で動悸がする・胃が重くなった、という方でも、気にせず服用している場合もあります。

党参:その特徴は性味が「甘」「平」で穏やかであることです。そのため、胃腸の働きを健やかにしますが、過度に胃の中の水分を乾燥させること無く、「胃陰」などを補充しますが、余分な水分を停滞させることもありません。また、「肺」を潤わせますが冷やしすぎることは無く、血を増やしますが適当な滋養力で血を濃くしすぎることはありません。従って、手軽な「補益」の常用薬として広範囲に活用され…(中略)
しかし党参は人参ほどの力はありません。しかも持続力も短いので軽症や慢性病の時は朝鮮人参の代用になりますが、重症で緊急の時には人参を用いる必要があります。…

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血虚の傾向にあるもいいかもしれません。あくまで「やや傾向」というレベルですが。

党参は、脾・肺二経に入り、気を補い、血を補う生薬で、脾胃の病を治し、気血両虚の病に倒して応用されます。(中略)また、赤血球を増加させます。これは脾臓の中で内分泌作用によって赤血球生成が刺激され、この刺激作用が党参によって一層高まるからです。党参が補薬として使われるのはこのためです。(後略)

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普通に補中益気湯を使うときもありますし、補中丸を使うときもありますし。このあたりは使い分けです。

補中益気湯の症例(口コミ)

胃下垂・痔(70代女性)

70代女性、健康診断ではいつでも胃下垂といわれる。食欲はあるけれども、すぐに満腹になってしまう。オーバーワークしがちで、朝になっても疲れが抜けず手足がだるいことあり。脱肛の持病があり普段は大丈夫だけれども、家事や仕事で疲れたときに脱肛の傾向が強くなる。肛門の辺りが気持ち悪いらしい。(略)葬祭での対応が続き、疲れて脱肛が悪化した、やや微熱が続いている、と相談となった。

自営業の事務を手伝っている元気な女性でした。疲れると「気虚」が酷くなり、臓器を持ち上げる「気」の力が低下すると胃下垂や脱肛も酷くなります。これを漢方では「気虚下陥」と呼びます。さらに酷くなると、手足が火照ったり微熱が続くような陰虚傾向も強くなります。

典型的な補中益気湯をお勧めしたい症状です。麦味参顆粒と併せて、補中益気湯合生脈散(勿誤薬室方函口訣)にして2週間ぐらいお勧めしました。その次に来店されたときには「最近は脱肛が少なくなって!」と元気に話されていました。

せっかちな方なので、すぐに服用を中止してしまうのですが、今回に関しては「補中益気湯を継続」すること。あと、晶三仙加陳皮などの健康食品は、体調を見てご自身で調整するということで、お話ししました。その後、数年になりますが、服用を継続されてうまくいっています。 

脱肛の、指で押し込めないレベルは必ず病院に行きましょう。

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この記事を書いた人

漢方を専門に学ぶ薬剤師。大学卒業後、東京・高知の漢方薬局にて漢方を研鑽。漢方薬局の二代目として大阪に戻る。このサイトでは、身近な漢方であるようにと「分かりやすい言葉」で説明するように心がけています。

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