【越婢加朮湯】浮腫や関節の腫れに。応用範囲の広い処方でした

漢方を始めたばかりの頃、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)は「不思議な」処方でした。葛根湯にも使われる「麻黄」という生薬が入っているのに、風邪ではなくて「浮腫」に使います。しかも、花粉症にもリウマチにもアトピーやメニエルのような症状にも使うことがあります。簡単な構成の処方なのに、効果が早く、他の処方との組み合わせもしやすい処方です。

目次

越婢加朮湯の効能効果

越婢加朮湯の効能効果を見てみましょう。

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体力中等度以上で、むくみがあり、のどが渇き、汗が出て、ときに尿量が減少するものの次の諸症:むくみ、関節のはれや痛み、関節炎、湿疹・皮膚炎、夜尿症、目のかゆみ・痛み

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「むくんでいて、喉が渇き、汗が出て、尿量減少」→「浮腫む」と「汗が出て」は真逆ですけれども、漢方では「水分が偏っている」「水分代謝が悪い」と考えます。その上で、「関節の腫れ」など炎症が起きています。

浮腫や関節炎・腫れ、目の痒みはまだわかりやすいのですが、不思議なのは「夜尿症」。どう関係しているの?!!と不思議に思いますよね。

越婢加朮湯はどんな処方?

イメージを書いてみました。公園の噴水から水が噴き出しています。吹き上がった水がポンプの調整不足で溢れたり(脾胃の損傷)・邪気(風邪)によって吹き飛ばされたりで、周囲に水たまりを作っています。

どんどんと水が溢れ乾くことなく広がります。そして、この水の一部は機械にかかってしまって徐々に熱を持ち始めます。つまり「湿熱」腫れです。

越婢加朮湯は、それらの溢れた水・熱を「麻黄-石膏」のポンプの力で抜き取る処方です。溜っているモノだけ抜き取りますので西洋薬の利尿剤とは違い水を抜きすぎてフラフラとまではいきません。その割には即効性があります。また若干ですが崩れた脾や肺を立て直す働きもします。

越婢加朮湯

水が氾濫して浮腫となった状態。越婢加朮湯は氾濫した水を抜き取る作用がある。

名前の由来

越婢加朮湯の名前の由来は「脾気を発越(発散/奮起)する」といわれています。「婢」は「脾」の誤用から始まったらしいですが、越婢加朮湯が正解で越脾加朮湯は間違い・・・らしいです。

越婢加朮湯の組成

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麻黄・石膏・生姜・大棗・甘草・白朮

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ポイントは「麻黄+石膏」。とても相性の良いコンビで、越婢加朮湯だけでなく、麻杏甘石湯(咳・気管支喘息の処方:裏実熱症)にも使われています。エキス剤を舐めてみると若干苦みのある処方ですが、それほどまずいわけではありません。

類似処方 同一生薬
防已黄耆湯 白朮・生姜・大棗・甘草 防已・黄耆
越婢加朮附湯 麻黄・石膏・生姜・大棗・甘草・白朮 附子
麻杏甘石湯 麻黄・石膏・甘草 杏仁
続命湯 麻黄・石膏・乾姜・甘草 桂枝・杏仁・川芎・人参・当帰

類似処方を一覧にしています。麻黄・石膏の組み合わせを使う処方は多いですね。

越婢加朮湯を詳しく

[expand title=”専門的な話なのでこちらをクリック。”]

辛温解表・宣散肺気の麻黄、辛寒清熱・生津止渇の石膏を基本とした越婢湯の加減処方。中医学では、風湿化熱・風水(湿熱痺証)に用い、効能は散風清熱・宣肺行水と呼ばれる。

脾気虚を伴う全身の浮腫にも使う処方で、風邪(ふうじゃ)が脾の運化の停滞によって生じる水(湿)と結びつき、肺気の宣発・粛降を阻滞すると、水道が通暢できなくなる。

そこに痰飲が停滞し、肌表に氾濫して浮腫となる。上半身の症状が多いが、全身の局所に起きることもある。陽気が閉じ込められると内熱を生じて傷津し、小便不利(出にくく)・口渇が起こる。

白朮は燥湿健脾で利水作用を増強している。

越婢加朮湯に入っている麻黄は、空気と接触する部分である皮膚や気管の血流を改善する生薬である。それに消炎作用のある石膏が加わると越婢湯の骨格ができあがる。
越婢加朮湯は皮膚病にも使うがもちろん関節の腫れその水抜きにも使われる。(中略)
麻杏甘石湯は原方が麻黄湯だが主薬の構成は越婢湯に近い。患部の熱を取りたいときに大変有効である。継承漢方による匙加減より

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症例・クチコミ

60代女性、関節炎に越婢加朮湯を使った話

60代女性、右手首の関節炎のご相談がありました。関節炎といっても色々な原因があります。左右の手首を見比べてみると確かに腫れて若干赤くなっています。この方の場合は、杖をついて歩くため、手首に負荷がかかっているように感じました。

「ロキソニンを貰って痛みは引いてるけど、この腫れているのをなんとかしたい」

病院から処方されたロキソニンを服用するとジクジクとした痛みは治まるらしいのですが、腫れは引かないしまた夜になると痛む。色々とお話をして、越婢加朮湯+αをお勧めしました。

1週間後に来店をされて「腫れはましかなー」といいつつ、さらに3週間。今では「杖をもつ手が痛い」と言わずに、歩けるようになりました。ただ、足関節に術後の痛みもあるようで様子を見ながら病院でのリハビリをお願いしています。

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20代女性、虫刺されの腫れに越婢加朮湯を使った話

虫刺されにも越婢加朮湯は使えます。「虫に刺されたんですが、、、」とご来店頂いた20代の女性。見てみると、左腕中程がポコリとハレて熱を持っています。ハイキングに行って何かの虫に刺されたらしいのですが・・・。

まずは水と氷で冷やして、落ち着いたところを市販のステロイド入りかゆみ止め(^-^;;;; 抗ヒスタミン剤は飲んだことがない・・・とのことだったので、体に優しいからと「越婢加朮湯」を服用してもらいました。

越婢加朮湯の効能効果、密かに皮膚炎があります。湿疹など以外にも虫刺されにも使えるんです。抗ヒスタミン剤・・・にはちょっと負けるかもしれませんが、それでもなかなかの効果があるんですよ?!数日はそれで対処して貰うようにお話ししたのですが。後日、道でお会いしたときお話ししたら、翌日にはすっきりと楽になったとのことです。

他の処方を併用することも多いです。ご相談ください。

参考資料:漢方方剤ハンドブック、漢方処方の構成と適用、中医臨床のための方剤学

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この記事を書いた人

漢方を専門に学ぶ薬剤師。大学卒業後、東京・高知の漢方薬局にて漢方を研鑽。漢方薬局の二代目として大阪に戻る。このサイトでは、身近な漢方であるようにと「分かりやすい言葉」で説明するように心がけています。

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