大建中湯はこんな処方です

大建中湯は、病院でよく使われる処方の一つ。病院では「術後の腸閉塞(イレウス)予防」に頻用されています。が、腸が動かない場合だけでなく、動きすぎる場合にも使えます。

目次

大建中湯の効能効果

大建中湯は「建中湯」シリーズ。胃腸を温めて、脾胃の機能を立て直す方剤です。ですので、効能効果も胃腸に関係しています。

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腹壁胃腸弛緩し、腹中に冷感を覚え、嘔吐、腹部膨満感があり、腸の蠕動亢進と共に、腹痛の甚だしいもの:胃下垂、胃アトニー、弛緩性下痢、弛緩性便秘、慢性腹膜炎、腹痛(コタロー)

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大建中湯の場合ポイントは「冷たい」です。「冷たい」には温度だけでなく、冷えて=動かない(弱まる)、こんな状況も含んでいます。

  1. 生活習慣によって胃腸が冷えている・機能が弱まっている
  2. 冷たいものを食べた、飲んだ・冷える環境にいる

こうした「冷え」をキーワードとして起きた腹痛を治す処方です。特に、大建中湯はけっこう強い腹痛のときに使われます

もう少し詳しく

漢方ではこうした脾胃の冷えを「中焦陽虚(中焦虚寒)・寒盛上逆」と呼びます。

  • 「中焦陽虚」はもとが胃腸の弱さがあり温められずに腹痛が起きます。
  • 「寒盛上逆」は飲食や環境による冷えに負けて腹痛が起こります。

漢方では外因・内因といいますが、そのどちらにも使える処方です。図にしてみました。

大建中湯の処方構成

大建中湯は4種類の生薬を使う単純な処方です。単純なだけに切れ味がいい処方です。山椒・乾姜で冷えた胃腸を動かして、膠飴・人参で脾虚を補います。

大建中湯 膠飴・人参・山椒(蜀椒)・乾姜

膠飴を君薬(メインの生薬)にするか、山椒を君薬にするか。本によって様々ですが、わたしは膠飴をメインで考えています。

膠飴は「米を蒸して糖化した飴」。脾気を高めて気を補うと共に、山椒や乾姜の作用を緩和します。この膠飴ですが、麦芽糖を含みます。

[st-mybox title=”メモ” fontawesome=”fa-file-text-o” color=”#757575″ bordercolor=”” bgcolor=”#ffe4e1″ borderwidth=”0″ borderradius=”5″ titleweight=”bold” fontsize=”” myclass=”st-mybox-class” margin=”25px 0 25px 0″]

中国の大建中湯では蜀椒が使われています。「蜀椒」といえば四川料理。中華料理店の麻婆豆腐、ピリリと痺れるように辛いのは蜀椒です。Amazonで「花椒」と検索すると売っています。中国の原典には蜀椒との記載がありますが、日本の大建中湯では日本原産の山椒が使われているようです。日本の山椒は七味唐辛子に入っていますね、ピリッとしますが鼻に抜ける良い香りが特徴。

蜀椒・山椒とも同じ「温中散寒除湿」の効果とはいえ、日本と中国での「大建中湯」の効果は少し違うんだろうなと考えています。

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組み合わせはこのように?

大建中湯は西洋医学的には、腸管運動機能低下による術後の麻痺性イレウス、ガスが腸内に溜まったコトによる便秘、偽性腸閉塞、巨大結腸症、糖尿病による腸管運動低下にも使われます。

大建中湯単体だけでなく、

  • 大建中湯+小建中湯(長期投与の場合に)
  • 大建中湯+調胃承気湯(強い便秘の場合)
  • 大建中湯+人参湯(脾虚が強く下痢があれば)
  • 大建中湯+半夏厚朴湯(腹部膨満感が強ければ)

というように、大建中湯にさらに脾胃を補う処方を使う場合もあります。

大建中湯は「中焦の陽虚を改善すればあとは自力で頑張れるだろ!」というイメージなので。脾気虚が強ければ、脾気虚を改善する処方を足すなり時期に応じてなんとかしてあげたい・・・とは考えています。

大建中湯の注意点(副作用)

温める処方なので、実熱・虚熱・陰虚火旺といった熱症状がある場合は使いません。例えば、舌をみて「白苔と黄苔が混じったような実熱や、虚熱(陰虚熱)のあるような舌」の場合は別の処方にします。

[st-kaiwa5]術後に病院から処方されましたが、大丈夫ですか?[/st-kaiwa5]

という質問を時々いただきます。

病院としては腸閉塞の予防的措置。しかし、高齢の場合、体質的に「陰虚(体・特に手足が火照るなど)」である場合が多く、心配なのでしょう。

状況を伺ったうえで「日本の製剤はそれほど激烈でもないので、短期的になら問題は無いでしょうね」とはお話ししますが。やはり長期的な予防の場合は、他の処方を合わせるなど陰虚対策をして欲しいところです。

大建中湯と小建中湯の違い

大建中湯の「大」は効果が強いことから大と言われます。大建中湯・小建中湯・人参湯の処方を比較してみました。小建中湯は「虚証(脾虚)」を中心に使う処方で、補うための生薬が多く含まれています。

脾虚があって長期投与する場合は、小建中湯です。子供のシクシクと冷えて起きる腹痛は小建中湯ですよ。

処方名 処方 効能効果
大建中湯 膠飴・人参・山椒・乾姜 腹が冷えて痛み、腹部膨満感のあるもの
小建中湯 膠飴乾姜・白芍・炙甘草
・桂枝・大棗
体力虚弱で、疲労しやすく腹痛があり
血色がすぐれず、ときに動悸、手足の
ほてり、冷え、ねあせ、鼻血、頻尿および
多尿などを伴うものの次の諸症:小児虚弱
体質、疲労倦怠、慢性胃腸炎、腹痛、
神経質、小児夜尿症、夜泣き
人参湯 人参乾姜・炙甘草・白朮 体質虚弱の人、或いは虚弱により体力
低下した人の次の諸症  急性・慢性
胃腸カタル、胃アトニー症、胃拡張、
悪阻(つわり)、萎縮腎

 

もうちょっと詳しく

[st-mybox title=”クローン病での腸閉塞予防” fontawesome=”fa-check-circle” color=”#757575″ bordercolor=”#BDBDBD” bgcolor=”#ffffff” borderwidth=”2″ borderradius=”5″ titleweight=”bold” fontsize=”” myclass=”st-mybox-class” margin=”25px 0 25px 0″]

クローン病で腸閉塞を起こした患者に対しても大建中湯5gの投与によって閉塞解除までの時間が優位に短縮したという報告がある。Gさんの場合も、免疫抑制剤や5-アミノサリチル酸製剤による治療で病状が改善しないことから、主治医が腸閉塞の危険があると考え、大建中湯を処方したと考えられる。(NIKKEI Drug Infomation 2008.8 PE4)

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[st-mybox title=”大建中湯に使われる症状” fontawesome=”fa-check-circle” color=”#757575″ bordercolor=”#BDBDBD” bgcolor=”#ffffff” borderwidth=”2″ borderradius=”5″ titleweight=”bold” fontsize=”” myclass=”st-mybox-class” margin=”25px 0 25px 0″]

腸管の蠕動亢進して望見できるほどである。腹壁はきわめて柔らかく、全体にやや膨満した感じである。発作的に激しい腹痛を訴える。脈は弱い、手足冷たい、暖かい飲食を好む。回虫症、胃下垂、子宮後屈などの内臓下垂症が多い。嘔吐感。(参考:大阪府薬雑誌 V60 No.8 2009)

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[st-mybox title=”大建中湯の作用機序” fontawesome=”fa-check-circle” color=”#757575″ bordercolor=”#BDBDBD” bgcolor=”#ffffff” borderwidth=”2″ borderradius=”5″ titleweight=”bold” fontsize=”” myclass=”st-mybox-class” margin=”25px 0 25px 0″]

腸閉塞に効く内服薬は西洋薬にほとんど無く、外科領域では大建中湯が第一選択薬になっている(中略)その機序として、①平滑筋の5HT4受容体刺激によるアセチルコリン遊離促進②粘膜知覚神経末端のバニロイド受容体を介したサブスタンスPの遊離促進③粘膜上皮細胞からのモチリン分泌促進 により、腸管運動を促進することが、基礎研究で明らかになっている(NIKKEI Drug infomation 2007.12 PE24)

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[st-mybox title=”大建中湯の作用機序” fontawesome=”fa-check-circle” color=”#757575″ bordercolor=”#BDBDBD” bgcolor=”#ffffff” borderwidth=”2″ borderradius=”5″ titleweight=”bold” fontsize=”” myclass=”st-mybox-class” margin=”25px 0 25px 0″]

大建中湯は、アカルボースによる腸閉塞様症状発現モデルマウスの腸管運動を有意に抑制しました。しかし、大建中湯から膠飴を除くと、コントロールと比較して明らかに高い消化管運動の促進効果が得られました。この傾向は小建中湯でも同様にみられ、小建中湯から膠飴を除いたでは大建中湯去膠飴とほぽ同等の消化管運動の促進効果が得られ、膠飴は常に消化管運動を抑制することが示唆されました。[漢方スクエア]

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参考:MindsガイドラインライブラリCQ42

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この記事を書いた人

福田優基のアバター 福田優基 薬剤師/国際中医師

ゆうき先生:漢方を専門に学ぶ薬剤師。大学卒業後、東京・高知の漢方薬局にて漢方を研鑽。漢方薬局の二代目として大阪に戻る。このサイトでは、身近な漢方であるようにと「分かりやすい言葉」で説明するように心がけています。

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