子供のおねしょ(夜尿症)と漢方薬

おねしょのご相談で多いのが、子供・特に修学旅行前の児童と、高齢者。このページでは「子供のおねしょ」についてです。

目次

おねしょ(夜尿症)の基礎

[st-kaiwa5]修学旅行中におねしょをしたらと思うとすごく不安になります
子供が8歳になってもおねしょをします
怒ったあとから、おねしょをするようになりました[/st-kaiwa5]

お母さん方からこんな「おねしょ」についてのご相談があります。このページをご覧の方は、本当に色々なサイトを見て勉強されていると思いますので、西洋医学的な話は他のサイトに譲って、簡単な基礎と、漢方の話を記載します。

幼児期にお漏らしをすることを「おねしょ」といいます。そして、5~6歳(小学校入学前)を過ぎて月に数回以上、おねしょをすることを「夜尿症」といいます。だいたい割合としては5歳なら5人に1人、7歳なら7人に1人、ぐらいのイメージです。

おねしょのタイプ

おねしょのタイプとして、

  • 多尿型:一晩の尿量が多いタイプ。おねしょの量と朝の尿を合計すると250cc以上有るタイプ。夜間に取る水分が多いことも。
  • 膀胱型:膀胱の容積が小さいタイプ。おしっこをためる力が弱い。日中もおしっこが近くて冷え気味。

これらの混合型もあります。どの程度の頻度で治るのかなと調べていたのですが、詳細なデータを見つけられなくて。ある小冊子では1つ年齢が上がるごとに10~15%程度は自然に治るとは書かれていましたが・・・。潜在的に困っている方は多そうです。

おねしょに使われる有名な処方

で、おねしょの漢方薬としてよく使われるのが「小建中湯(しょうけんちゅうとう)」。漢方には珍しく、甘い処方です。膠飴(水飴みたいなもの)が含まれているので子供でも飲みやすいんです。

[st-mybox title=”効能効果” fontawesome=”fa-check-circle” color=”#757575″ bordercolor=”#BDBDBD” bgcolor=”#ffffff” borderwidth=”2″ borderradius=”5″ titleweight=”bold” fontsize=”” myclass=”st-mybox-class” margin=”25px 0 25px 0″]

小建中湯:体力虚弱で、疲労しやすく腹痛があり、血色がすぐれず、ときに動悸、手足のほてり、冷え、ねあせ、鼻血、頻尿および多尿などを伴うものの次の諸症:小児虚弱体質、疲労倦怠、慢性胃腸炎、腹痛、神経質、小児夜尿症、夜泣き ツムラ添付文書より

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飲みやすい上に、添付文書にも「小児夜尿症」の記載があり、その安心感もあるのでしょうね。相談される方の半数ほどがすでに服用されていたりします。ただ、小建中湯が効果のあるおねしょは「冷えがあるおねしょ」。明け方頃に漏らすような、おしっこも透明で薄い色のような、そんなおねしょです。

小建中湯についてちょっと詳しく

[expand title=小建中湯について、詳しくはこちらをクリック]

小建中湯は胃腸を立て直す処方で、桂枝加芍薬湯に膠飴を加えた処方です。小建中湯が紹介されている古典の一節を紹介すると下記のようなものがあります。

小建中湯
金匱要略:
虚労裏急、悸、衄(はなぢ)、腹中痛、夢失精、四肢酸疼、手足煩熱、咽乾口燥、小建中湯主之
男子黄*、小便自利、富興虚労小建中湯(男子黄ニシテ小便自利ナルハマサニ虚労タリ、小建中湯ヲ与ウベシ)
婦人腹中痛、小建中湯主之(婦人の腹中痛ムハ、小建中湯コレヲ主ル)
傷寒論:傷寒、陽脉濇、陰脈弦、法富腹中急痛、先興小建中湯、不差者、小柴胡湯主之

ネットから「これは、おしっこの処方ですか?」という質問もありますが、虚弱を改善する処方です。おねしょの専門薬ではありません

太線にしています条文(項目)は『疲れや栄養失調などでくすんだ黄色(痿黄)の子供は尿がよく出るので、そんなときは小建中湯を使いましょう』という意味です。「小便自利」とは小便がよく出る、ぐらいの意味で「おねしょ」でもありません。そう聞いてから、上記を見ると・・・なんとなく体の虚弱なタイプに使うのが小建中湯だな、と思えます。

ちなみに、小便自利といえば、他にも記載されている処方はあります。こちらのサイトが良くまとまっていました。漢方で小便は寒熱や虚実の目安になります。[/expand]

 

正直なところ全員に効果のある処方でもなくて、小建中湯だけで「ぴったり改善した!!」という方は少ないです。昔は状況も悪く脾胃が虚弱なタイプが多かったため小建中湯で改善したんだと思いますが、現代の子供は複雑です

ゲームもあり、宿題もあり。家族関係・友達関係、ストレス、食生活や寝不足・生活習慣もあります。小建中湯以外の場合もありますし、それだけで対応出来ないかもしれません。当薬局の場合は2~3種類の処方を組み合わせて考えています。

おねしょの症例

[st-mybox title=”症例” fontawesome=”fa-check-circle” color=”#757575″ bordercolor=”#BDBDBD” bgcolor=”#ffffff” borderwidth=”2″ borderradius=”5″ titleweight=”bold” fontsize=”” myclass=”st-mybox-class” margin=”25px 0 25px 0″]

小学5年生 140cm,30Kg 冬に来局。週に2回程度おねしょをすることがある。朝方 多量 透明(薄い)。起きてトイレに行くこともあれば、漏らして寝ていることもある。食欲や顔色などは特に問題は無い。夜寝る時間が遅い。冬になっておねしょの回数が増えた気がする。舌質:淡紅 その他既往歴、自覚症状などもなし(その他略)

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お母さんからのご相談です。医療機関を受診しても「特に問題無いのでしばらく様子を見てください」といわれ、困ってしまってのご相談でした。本人も落ち込んでいるとのことで、早く改善したいとのこと。季節によっておねしょの回数が変化するのは、飲む水の量が多すぎるようです。

この場合は「小建中湯と     」という処方に、夕食以降はあまり水分を飲まないこと、特に就寝前には飲まないこと(朝と寝る前にコップ一杯の水を飲む健康法を親子とも実行していた)などを伝えました。

回数の揺れはありつつ、2~3ヶ月後には回数も減ってきて、半年後ぐらいにはおねしょも改善しました。だんだんと体も成長し、「腎」がしっかりとすると、症状も落ち着くことが多いです。

漢方での考え方

漢方では夜尿症のことを「遺尿(いにょう)」といいます。よく見られるのが下記の3パターン。

  • 腎陽虚:腎のエネルギーが足りない(手足が冷える、顔が青白い、寒がり)
  • 脾腎両虚(or 脾陽虚):元気が無い、疲れやすい、食が細い、軟便(もしくは便秘)、食べ過ぎると下痢+腎虚(腎陽虚)の症状
  • 肝鬱気滞:イライラ感が強い(疳の虫)、尿の色が濃い、寝言を言う、歯ぎしり、ストレス

他にもパターンはあります。腎虚・腎陽虚の場合では六味丸・八味地黄丸を使うこともありますし、脾腎両虚の場合は上記の小建中湯と何か、また、肝鬱気滞の代表的な処方と言えば加味逍遥散ですね。女性の処方と書かれたサイトも多いですが、子供に使うこともあります。気滞で半夏厚朴湯を使うことがあります。最近の(食生活の悪い)子供に多いのですが慢性的な脾胃の気虚で参苓白朮散(+晶三仙)を使うこともあります。

体内の熱症状が強ければ、竜胆瀉肝湯、三黄瀉心湯、胃熱ならば白虎加人参湯を使うこともありますし、それ以外にも処方はあります。

抗利尿ホルモンと腎虚?

病院のサイトをみていると「抗利尿ホルモン(バソプレッシン)」という名前を見たことがあると思います。夜におしっこが出ないようにしているホルモン(尿を濃くして尿量を少なくする)で、特に夜にしっかりと分泌されます。ただ、発達途上の子供は分泌がしっかりとしていません。

漢方が発展した頃は顕微鏡はありませんし、ましてやホルモンなんて分かりません。ただ「何か」が関係しているとは考えられていました。ですので、こうしたホルモンや機能もひっくるめて「腎」と名前をつけました。

腎といっても腎臓だけを指しているわけではないんですよ。腎陽虚は「冷える」状態も含まれますが、「ホルモンがしっかりと出ていない」体質も含まれる概念です。

おねしょのタイプで説明した膀胱型も多尿型も「腎陽虚」の概念で説明もできますし、西洋医学も東洋医学も結局は同じようなこと指摘しています。腎虚については別のページで紹介していますので、参考にしてください。

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おねしょの養生法

おねしょはご両親の対応も大切です。焦らない、怒らない。「何でおねしょに気がつかないの!?」と怒っても、子供は気がつかないほど深く眠っているのですから。仕方有りません。

色々な養生法がありますが、

  1. 昼間には膀胱の容量を増やすトレーニング
  2. 夕方から夜にかけて水分を減らす

のは行ってもらっています(無理しない程度で)。あとは食生活を整えること。漢方を飲めばすぐ治る、というものでもありません。

その上で、目安としては3~6ヶ月ほど様子を見て、もし漢方でもまったく効果が無いようなら病院の受診をお勧めしています。漢方ではなく、病院の抗利尿ホルモンの治療で改善するかもしれませんし、他にも手があります。焦らず、諦めない。また、現在の病院の治療に満足していない場合でも、漢方薬を併用することは可能ですので、試してみてください。

追記:大人の夜尿症

大人にも夜尿症があります。そのうち別ページで解説しようと思います。

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この記事を書いた人

漢方を専門に学ぶ薬剤師。大学卒業後、東京・高知の漢方薬局にて漢方を研鑽。漢方薬局の二代目として大阪に戻る。このサイトでは、身近な漢方であるようにと「分かりやすい言葉」で説明するように心がけています。

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