五苓散(ごれいさん)はこんな処方です

五苓散の話をすると「ああ、利尿剤ですよね」そんな答えが返ってくることがあります。利尿だけではありません、それ以外にも色々と効果のある処方が五苓散です。

五苓散の症例:めまい

月経周期の後半(生理前)から生理まで、めまいと頭痛が強くなるとの相談(30代女性)がありました。いつもペットボトルを持ち歩き、水分はよく摂るけれども、口は渇く。朝に指のあたりに浮腫がでてパツンパツンになってしまう(問診中略)

PMS(月経前症候群)は月経前から月経の始まり頃まで続く様々な不快な症状です。「強い気分の変動、不安、不眠、イライラ、眩暈」などがおきます。「ものを投げたくなる」とか「旦那のひとことですぐに大喧嘩!」という相談もあるぐらい男性には怖い?症状です。

PMSに効果のある漢方としては加味逍遥散や桂枝茯苓丸が有名ですが、この方にはそれらに加えて五苓散も処方することになりました。

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五苓散の効能効果

五苓散の添付文書の「効能効果」にはこう書かれています。

体力に関わらず使用でき、のどが渇いて尿量が少ないもので、めまい、はきけ、嘔吐、腹痛、頭痛、むくみなどのいずれかを伴う次の諸症: 水様性下痢、急性胃腸炎(しぶり腹のものには使用しないこと)、暑気あたり、頭痛、むくみ、二日酔  ツムラ漢方
浮腫、ネフローゼ、二日酔い、急性胃腸カタル、下痢、悪心、嘔吐、眩暈、胃内停水、頭痛、尿毒症、暑気あたり、糖尿病 ツムラ医療用漢方処方添付文書

漢方を勉強したことがある方には「五苓散=浮腫の処方」のイメージがあると思います。そこから考えると、吐き気・嘔吐・下痢。なんとなく胃腸にも効果がありそうです。頭痛、暑気あたり、二日酔い???どうして効くのかなと不思議ですよね。

五苓散は水湿を改善する

実は五苓散は「浮腫」だけでなく「水湿」を改善する代表的な処方です。

余分な水を排出するだけでなく、偏った水のバランスもとることが出来る処方です。「水」は偏るといいことがありません。家の前に水たまりが出来ると??車がバシャバシャと水をはねたり、植木が泥だらけになったり。水はしっかりと排水溝に流れて欲しいですね。

上記の女性は水を飲んでも口が渇く、しっかりと水を吸収し全身に行き渡っていない状態です。指の浮腫はまさしく偏った水です。

「試しに服用してみて」とお話しした五苓散などの処方が気に入ったようで「生理前のだるーい頭痛がないと楽ですよね」と継続していただいています。

水逆の嘔吐を止める

浮腫の話をしていましたが、もうひとつ「水逆の嘔吐」にも効果があります。水逆とは水を飲むとすぐ吐く症状・・・身近な例では

  • お酒を飲み過ぎて倒れてしまった友達に水を飲ませようとしてもすぐに吐き出してしまう  ※アルコール中毒寸前ならすぐに病院へ
  • 子供が高熱で倒れてしまって、脱水症を避けようと水を飲ませたいけれども、飲ませた瞬間にすぐに吐き出す

どちらも経験したことがある方は多いのでは?だいたい重篤になると病院に搬送されて点滴になりますが、その前に五苓散をお勧めします。粉薬なら少しの水で練って口に含ませます。

血中の水分が胃や腸に逆流してジャブジャブ、これをポンプの力で血中(組織)に引き戻してあげるのも五苓散の働きです。

五苓散の処方構成

五苓散は「沢瀉・猪苓・茯苓・白朮・桂枝」5種類の単純な処方ですが、よく考えられた処方で効果もシャープです。漢方の用語では「利水滲湿」の処方といわれ、「沢瀉(たくしゃ)」が君薬(メインの生薬)、腎に働きます。茯苓・猪苓も水を捌き、白朮が胃腸の水をとり、それぞれが作用して効果を高めます。漢方では同じ系統の生薬を使って効果を高めることがよくあります。

利尿剤と五苓散の違い

生薬名
茯苓・白朮 体内・消化管内の過剰水分を血中に吸収する
猪苓・沢瀉 血中の余剰水分を利尿により排せつ
桂枝 血管を拡張させて利尿を助ける
発汗解表作用

引用:山本巌流漢方入門(基本病態と基本法剤と生薬) メディカルユーコン

※五苓散は「淡味」で茯苓・沢瀉・猪苓が主薬で水飲を出す処方です。「苦味」で湿を出す白朮も含まれ、トータルで見て、「水も出し加えて湿も出せる」と考えます。

利尿剤と五苓散の違い

五苓散について色々とお話ししましたが、不要な水を「くみ上げるように排出する」のが五苓散。井戸の溜まった水、偏在や余剰な水をくみ出します

逆に、西洋の利尿剤は蛇口を開けるイメージです。タンクにある分をあるだけ出してしまいます。「浮腫だけ」のために利尿薬を使うことは少なくて、血管の水分を排出して心臓への負荷を減らすために用いられる場合が多いです。

※ 五苓散はよい処方です、ただ、長期的に服用する場合は他の処方と併用(加減)することも多いですので、ご相談下さい。

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この記事を書いた人

漢方を専門に学ぶ薬剤師。大学卒業後、東京・高知の漢方薬局にて漢方を研鑽。漢方薬局の二代目として大阪に戻る。このサイトでは、身近な漢方であるようにと「分かりやすい言葉」で説明するように心がけています。

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