苓甘姜味辛夏仁湯はこんな処方です

漢方の風邪の処方といえば、麻黄湯・葛根湯・小青竜湯は有名ですが、今回は苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)というちょっとマイナーな処方のお話です。

目次

苓甘姜味辛夏仁湯の効能効果

まず効能効果についてですが、

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貧血、冷え症で喘鳴を伴う喀痰の多い咳嗽があるもの。気管支炎、気管支喘息、心臓衰弱、腎臓病。

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痰の多い、この痰ですがサラサラであったり、水っぽいモノですね。粘つく痰では別の処方になります。気管支炎、気管支喘息の初期であったり、軽いモノに使います。

どんな人に効きますか?

名前が長いので、複雑な処方と感じられますが、何のことはなく生薬の頭文字を取った処方で(^-^;;;; 判りやすい処方とも言えます。水を捌く処方でポイントは「やや冷え」「水っぽい」中心に考えます。咳・鼻水だけでなく、胃の水の停滞(吐き気)にも使うことがあります。

症例1:水っぽい咳

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60代男性、春頃に来局。少し肌寒いときや雨の前頃になると咳が出てくる。鼻水は薄く、少し経つと治るぐらい。暑がりか寒がりかといえば、寒がり・・・だけれどもそれほど気にならないとのこと。

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本人からは「取り立てて悪くなるワケではないが、なんとかできないか」と言われたのですが。小青竜湯を使うほどもないが、香蘇散か苓甘姜味辛夏仁湯か。ということで、苓甘姜味辛夏仁湯をお渡ししましたら「服用していると楽になる」と喜ばれてちょくちょくつかわれているようです。

症例2:授乳中の花粉症に

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35歳女性からのご相談。2月に出産、花粉症が酷いので困っている。痩せ形。去年まではアレグラを服用してすごしていたが、授乳中なので西洋薬をできるだけ飲みたくない。胃腸虚弱(食べても太ることが出来ない、食べ過ぎると下痢を起こす)、舌の状態胖大(舌に浮腫があり、よろしくない)、鼻水はタラタラと水っぽいものが垂れる、朝に咳と鼻水が酷い。

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普通だと小青竜湯+αなど使いたいタイプですが、「授乳中のため穏やかな処方を」と希望されたことから苓甘姜味辛夏仁湯+衛益顆粒(少々)をお話ししました。

もう少し詳しく

添付文書を再度見てみましょう。効能効果には「冷え」て「咳があるもの」と書かれています。身体を温めて治す処方なのですが、小青竜湯に似ています。

処方名 効能効果
苓甘姜味辛夏仁湯 貧血、冷え症で喘鳴を伴う喀痰の多い咳嗽があるもの。:気管支炎、気管支喘息、心臓衰弱、腎臓病:ツムラ苓甘姜味辛夏仁湯エキス顆粒添付文書より
小青竜湯 体力中等度又はやや虚弱で、うすい水様のたんを伴うせきや鼻水が出るものの次の諸症:気管支炎、気管支ぜんそく、鼻炎、アレルギー性鼻炎、むくみ、感冒、花粉症

これらの処方は「肺と痰飲」、痰の出るような喘息には色々な原因がありますが、「痰飲」は寒飲といわれるような冷え、タラタラ、浮腫の場合もブヨブヨとした弱いというか柔軟というか、そんな浮腫に使われます。

逆に、浮腫は弾力性があり、胸元が強く張り、心下痞鞕(鳩尾部の抵抗・圧痛のある状態)あれば木防已湯などを使ったり、便秘などもあれば大柴胡湯などを使います。

構成生薬は?

苓甘姜味辛夏仁湯はややこしそうな名前ですが、「苓(茯苓)甘(甘草)姜(生姜)味(五味子)辛(細辛)夏(半夏)仁(杏仁)湯」というように、構成処方の頭文字を取った処方です。従兄弟のような処方が中国の古典「金匱要略」に記載されています。

  • 苓甘五味姜辛湯(りょうかんごみきょうしんとう)
  • 苓甘姜味辛夏湯(りょうかんきょうみしんげとう)
  • 苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)←今回はこの処方
  • 苓甘姜味辛夏仁黄湯(りょうかんきょうみしんげにんおうとう)

ベースとなる「苓甘五味姜辛湯」に「半夏・杏仁」を加えたのが今回の苓甘姜味辛夏仁湯で、上記の4つのうち日本では苓甘姜味辛夏仁湯だけが製造されています。

よく似た使い方をする他の代表的な処方(桂枝湯・小青竜湯)と比較してみましょう。

桂枝 芍薬 大棗 甘草 生姜 細辛 麻黄 五味子 半夏 茯苓 杏仁
桂枝湯
小青竜湯
苓甘姜味辛夏仁湯

解表散寒、つまり「寒さ・冷えを身体から追い出して上げよう」という意味で効果が強いのは「小青竜湯」などですね。解表散寒の代表的な生薬:麻黄・桂枝を使っていませんが、それでも身体を温めて寒さを発散してあげようという意味で、細辛や生姜といった生薬を使っています。

妊娠中はどうですか?

「妊娠中は服用してもいいですか?」と聞かれることもあります。

「絶対ダメ!」な処方ではありません、ただそれでも短期にしてもらって、「安静にして欲しい時期」は中止して貰うこともあります。そのあたりは体調を見ないと判断できないので(^-^;;; 薬局薬店やかかりつけのDrにご相談ください。

参考書籍:漢方方剤ハンドブック・中医臨床のための方剤学

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この記事を書いた人

漢方を専門に学ぶ薬剤師。大学卒業後、東京・高知の漢方薬局にて漢方を研鑽。漢方薬局の二代目として大阪に戻る。このサイトでは、身近な漢方であるようにと「分かりやすい言葉」で説明するように心がけています。

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