男性不妊・性欲減退によく使う漢方処方と症例

男性不妊と一言でいっても、店頭の相談では「自然妊娠を期待したい」というご夫婦でのご相談から「病院で精子が少ないと言われた」という男性側の心配、「性欲が足りない(Sexしたくない)」「射精感がない(満足感が無い)」という密かに男性が抱いているお悩みもあります。漢方がどういった場面で活用できるかも踏まえて、解説していきます。

目次

西洋医学的な男性不妊

西洋医学的な男性不妊の原因として、

  • 精子を作る機能に問題がある(造精機能障害) 82%
    [精索静脈瘤30.2%・染色体遺伝子異常10.1%・不明42.1%]
  • 勃起・射精しない(性機能障害) 14.5% 
    [勃起障害6.1%・射精障害7.4%] 
  • 精子の通り道が詰まっている(精路通過障害) 4%
    [閉塞性無精子症3.9%]

(厚生労働省研究班2015年度資料)

上記のように言われています。意外と原因不明というのが多いですね。

男性不妊のご相談の始めに、当薬局では「病院で検査してきましたか?」と伺っています。精液の中に精子が無いと、どれだけ頑張っても妊娠しません。当たり前ですね。精液が出ていても精子がその中にいるかどうかは目で見て判りません。まずは病院にて検査することをお勧めしています。

といっても、男性は病院に行くのを嫌がります。漢方薬局について行くのでギリギリ、サプリメントは朝食と共に出されれば飲むかも、病院は絶対行きたくない。そんな方が普通です(^-^;;;;  協力的な男性は進歩的だと感じます。

・・・そんな場合ですが、スマホで検査するスコープも販売されていますので、そちらでセルフチェックでどうでしょうか。(Amazonで「TENGA MEN’S LOUPE テンガ メンズ ルーペ」と検索してみてください)

店頭での相談は・・・

病院を受診して、まず男性側も精子の検査をすると思いますが「数が少ない・運動機能が悪い・奇形がある」とDrから言われるのがこの「精子を作る機能に問題がある(造精機能障害)」です。物理的・器質的な問題は、精巣が元々働いていない(無精子症)、精子が通る管が閉塞している、逆行性射精など。

WHOの精子の基準

WHOの基準は2021年度に第6版として更新されています。今回からアジアの男性のデータも取り入れて幅広くデータが収集されていますが、今までと比べて、そこまで大きな変更はありません。データは、WHOのホームページで公開されていて213ページあたりに記載があります。残念ながら全て英語です(^-^;;;

「漢方で・・・」とご相談いただく患者さんは、基準ギリギリかちょっと下のものがある、ような方が多いです。

項目(下限基準)6版 2021年
(下限の5%)
6版 2021年
95%CI
上限の
97.5%
精液量1.4cc1.3-1.5cc6.9cc
精子濃度1600万/ml1500~1800万/ml25400万/ml
総精子数3900万3500~4000万86500万
運動率42%40~43%92%
前進運動率30%29~31%81%
生存率54%50~56%98%
正常形態率4%3.9~4%45%
WHO laboratory manual for the examination and processing of human semenより抜粋

データの基準の意味

このデータは避妊していない状態で12ヶ月以内に自然妊娠した男性の精液データで、下位5%を妊娠できる最低限のデータとしています。これぐらいあればいいでしょう、という数値であくまで目安です。これ以下でも妊娠できるときはできます。

95%信頼区間(95%Confidence Interval:95%CI)は、さらに統計的に処理をして、この範囲なら最低限として信頼できるでしょうと計算した数値です。病院によっては説明しない場合があります。

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病院で検査数値を渡されて、精子数が

運動率が1%少ないけれども!とか、

男性の原因、私は大きく3つに分けて考えています。

  1. 器質的な問題
  2. 内分泌・体質の問題
  3. 心・気持ちの問題

器質的な問題

物理的・器質的な問題は、精巣が元々働いていない(無精子症)、精子が通る管が閉塞している、逆行性射精など。

精液が無いとどれだけ頑張っても妊娠しません。精液が出ていても精子がその中にいるかどうかは見ても判りませんよね。まずは病院にて検査することをお勧めしています。

ただ、男性は病院に行くのを嫌がります。ご夫婦で相談に来局されてもやはり男性の半分ぐらいは「検査には行きたくない!」という方がおられます(^-^;;;;  スマホで検査するスコープなども販売されていますので、そちらでセルフチェックでどうでしょうか。

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内分泌・体質の問題

精子の問題として”精子数減少、運動率の低下、奇形率の上昇、白血球(精液中のゴミ)の増加、精液減少”など色々な原因があります。これは精子や精液の「工場機能」低下によるものです。西洋薬ではなかなか「精子を増やしたい」に対応する処方がなく「じゃぁ体外受精にしましょうか」となります。

ただ、体外受精をするしないに関わらず、漢方で内分泌・体質を改善しておくことは有効です。体質を改善することで、精子を作る環境が良くなります。

当薬局での相談で、漢方+生活養生の改善で「精子数が改善した!」という方はまま見られます。「ウソだ~、漢方試したけど変わらないよ~~」という方。生活養生していますか?(^-^;;;; 二つ併せないと効果は少ないですよ。食事・睡眠、そういった改善も大切になります。

まだ女性よりも目立ちにくいですが男性の精子も「老化」します。不妊相談で男性も35歳を超えた場合、女性と一緒に「腎」を補うような処方をお勧めしています。

心・気持ちの問題

ストレスといっても「仕事のストレス」だけではありません。男性に話してみると色々な思いがあります。

奥様に対してはなにも言わなくても「子作りに対して指図されるのが嫌」「種馬と思っているのか」「排卵日だけSEXを求められる」「機械的なSEXになる」。そんな雰囲気を察したのか奥様は「私はこんなに頑張っているのにやる気が無い!」と、お互い険悪になり、Sex自体が嫌になってしまいます。

アダルトビデオで射精できるがSexでは射精できなかったり、中折れしたりする。こういった状況も時々あります。改善できるかもしれません。

“長期の不妊治療中”や”ご主人が優しい”家庭に多く「排卵日に帰りたくなくなる」「排卵日に限って出張や残業が入る」ということが続けば黄色信号かなと思います。こちらも併せてお読み下さい→妊娠心得七箇条:不妊で悩むアナタへ。授かるために知って欲しいこと

男性不妊、漢方の考え方

漢方では、生殖機能・生殖能力は「腎」に属すると考えています。ただそれだけで無く、熱があるか冷えがあるか、熱があるならば偏っているか、部位・原因なども重要になります。

性欲減退の場合の漢方処方

性欲減退の原因もカウンセリングをしつつになりますが、下記のような処方を使うことが多いです。

脾腎陽虚参馬補腎丸、海馬補腎丸、至宝三鞭丸など
脾気不足補中益気湯など
肝腎陰虚杞菊地黄丸、(瀉火補腎丸)など
精気不足亀鹿仙(陰虚あり)、霊鹿参(陽虚あり)、海精宝、イーパオ
+冠元顆粒
肝気鬱結加味逍遥散、柴胡疎肝湯、柴胡加竜骨牡蛎湯など
湿熱下注竜胆瀉肝湯など

海精宝という処方を使うこともあります。(※聚精丸+魚鰾五子湯は曹開鏞先生がよく使っているという処方です。ただそれ以外の場合もあります、状況に応じて漢方処方、また西洋薬や食養生・生活養生などを組み合わせることが大切です。

男性不妊相談:症例

症例:40代男性。挙児希望で現在、夫婦で不妊症外来受診中。奥様は30代。ご主人の問題点として「Sex中にちょっとしたことで中折れしてしまう。性欲も減退したのか、なかなかSexしようという気にならない」「不妊症外来で精液検査をしたところ、数値も悪く(精子数が少ない)体外受精を勧められた」「漢方で少しでも授かるように改善したい」「性欲がないのも改善したい」とご相談でした。

問診:体型はがっしりしている、ラグビーをしており昔はとても元気であった。営業職で暴飲暴食あり(酒席が多い)、糖尿病とまではいかないが食事には注意するようにDrから言われている。下腹が気になるし、最近太り始めた気もする。舌苔:黄膩苔、舌質やや紅、少し顔色は赤いように感じる。尿やや黄色だがビタミン剤が原因と思う。睡眠はよくとっているつもりだがイビキがうるさいと言われる。( 中略 )既往歴無し、健康食品も取っていない。血圧はやや高いが、我慢できる程度(130~140mmHg)。頭痛はない。肩は凝りやすい。病院で精子検査したことは無い。

ある薬局で相談したところ「八味地黄丸」を勧められた。その後、別の薬局で相談したところ「八味地黄丸はやめた方がいい」と言われ「○○○○○○(健康食品)」を勧められた。これらの処方でいいのか、疑問に思って相談に来局した。今後は、体外受精をするにしろ、精子の数値が改善し性欲も出てくるようにと願っている。

男性不妊相談の症例 続き

確かに「八味地黄丸」は余り体質に合っていないかなという印象。体の湿熱傾向が強いため、それらを除きつつ、腎を補う処方を考えていました。また、食生活がとても荒れていて、12時を超えてからの夜食、ビールを片手にインスタントラーメンもパクパクと(^-^;;; 湿熱の改善は漢方薬だけで無くこれら生活習慣を改善しないといけません。

※奥様は別に検討しています。ひとまずこの時期は奥様は体外受精を目指していました。

初回相談:参馬補腎丸(2/3量)、竜胆瀉肝湯、イーパオ(少量)

参馬補腎丸は補腎の中でも穏やかな処方です。それに加えて竜胆瀉肝湯で湿熱をとり、イーパオをなどを追加しました。食生活はしっかりと改善する様にお話ししています。せめて、12時を超えたら食べないように!

二回目相談:参馬補腎丸、防風通聖散(2/3量)、イーパオ(少量)

手足の熱傾向が改善してきました。あと、仕事中に口が苦くなることが多かったのですがそれらも改善したとのこと。ただ、まだ食生活は悪く、ストレスが溜ったらインスタントやお菓子に手が伸びてしまいます(^-^;;;; ストレスと言われてしまうとなんとも出来ませんが、出来るだけ控えるようにと。運動を始めました。

三回目以降:

今回タイミングを取っていたが授からなかった、次回は体外受精かなと夫婦で相談したとのこと。ご主人は漢方を服用し始めて「体が動くようになってきたのはわかる気がする」ということ。性欲も若干出てきた。奥様の状況も良いので次回は体外受精予定でスケジュールを入れている。

ご主人の状況、食生活・睡眠も改善しています。精子の状況も改善していると思います。結果が出ましたら別に記載したいと思います。

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この記事を書いた人

福田優基のアバター 福田優基 薬剤師/国際中医師

ゆうき先生:漢方を専門に学ぶ薬剤師。大学卒業後、東京・高知の漢方薬局にて漢方を研鑽。漢方薬局の二代目として大阪に戻る。このサイトでは、身近な漢方であるようにと「分かりやすい言葉」で説明するように心がけています。

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