要約:この記事では、腹痛に対応するさまざまな漢方薬について説明しています。腹痛の原因や症状に応じて「安中散」「芍薬甘草湯」「桂枝加芍薬湯」などの処方が推奨されています。また、胃腸虚弱や冷えなど、個々の体質に合わせた漢方薬の選択が重要であることが強調されています。
腹痛でのご相談で多いのは「飲食の不摂生」「外部からの冷え」「持って生まれた体質」で起こった胃腸虚弱。60代ぐらいの方なら「昔から胃腸が弱くてね・・・」と自覚されている方が多いです。お悩みの足がかりになるように超シンプルに書いています。
まずは病院を受診して欲しい急性の症状について。特に「腹痛+血」があれば即受診です。
病院を受診して欲しい症状
①突然、これまで経験したことがない痛み
②冷や汗や吐き気を伴う強い痛み
③腹痛に加えて吐血・血便・発熱などがある
上記ではない、慢性的な腹痛の場合は漢方が良く効きます。
腹痛に使われる漢方薬
症状によって場合分けして、よく店頭で見られる症状には赤で丸をつけてみました。すごくシンプルな分け方ですが、あれ、これ、だけじゃなくて、実際には重複していることも多いです。
1.安中散
安中散の効能効果:体力中等度以下で、腹部は力がなくて、胃痛又は腹痛があって、ときに胸やけや、げっぷ、胃もたれ、食欲不振、はきけ、嘔吐などを伴うものの次の諸症: 神経性胃炎、慢性胃炎、胃腸虚弱
一般的な胃の痛み・胸焼け全般に効果があります。安中散は大正漢方胃腸薬にも含まれているメジャーな処方で、一時的な胃の痛みなら「安中散+芍薬甘草湯」がファーストチョイスでしょう。痛みを止める効果も強く胃炎などの炎症にも効果があります。
胃を温める生薬も含まれていますので、冷えから来た胃の痛みにもよく効きます。例えば、ビールの飲み過ぎで冷えた胃腸にも「安中散+五苓散」として使うこともあります。
2.芍薬甘草湯
芍薬甘草湯の効能効果:体力に関わらず使用でき、筋肉の急激なけいれんを伴う痛みのあるものの次の諸症:こむらがえり、筋肉のけいれん、腹痛、腰痛
芍薬甘草湯は筋肉の緊張を緩める処方です。こむら返りの処方として有名ですが、全身の筋肉に使えます。腹痛の場合なら胃の痙攣や差し込みに使います。ロキソニンなどの鎮痛剤は胃痛・差し込みには効果がありませんが、漢方の芍薬甘草湯なら効果があります。
他にも、知り合いの先生が胆石で痛みが出たとき、芍薬甘草湯を2~3包を一度に服用して助かったことがあります。効果も早く出るので、他の処方と組み合わせて使うことも多いです。
ただし、芍薬甘草湯は甘草の量が他の処方よりも多く、漫然と使い続けると副作用の可能性が高まります。適度適量が大切です。
3.桂枝加芍薬湯・小建中湯
桂枝加芍薬湯の効能効果:体力中等度以下で、腹部膨満感のあるものの次の諸症:しぶり腹、腹痛、下痢、便秘
小建中湯の効能効果:体力虚弱で、疲労しやすく腹痛があり、血色がすぐれず、ときに動悸、手足のほてり、冷え、ねあせ、鼻血、頻尿および多尿などを伴うものの次の諸症:小児虚弱体質、疲労倦怠、慢性胃腸炎、腹痛、神経質、小児夜尿症、夜泣き
桂枝加芍薬湯・小建中湯は兄弟のような処方です。安中散と違って、お腹が痛いとか胸焼けとか違和感とか胃が重いとか・・・ではありません。腸の動きが悪いな、というタイプにお勧めする処方です。調律・調整のような処方です。
昔は、お腹を冷やして下痢をしたとか、修学旅行で腹巻きをして寝ていた子供さん、いましたよね。そんな「お腹の弱い子供さん」にもお勧めしたい処方です。胃腸を補うという意味もあります。
5.人参湯・五積散・六君子湯
人参湯の効能効果:体力虚弱で、疲れやすくて手足などが冷えやすいものの次の諸症:胃腸虚弱、下痢、嘔吐、胃痛、腹痛、急・慢性胃炎
五積散の効能効果:慢性に経過し、症状の激しくない次の諸症 胃腸炎、腰痛、神経痛、関節痛、月経痛、頭痛、冷え症、更年期障害、感冒
六君子湯の効能効果:体力中等度以下で、胃腸が弱く、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすいものの次の諸症:胃炎、胃腸虚弱、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐
毎日、胃がシクシク・重い・食欲が無いといった、慢性的な胃腸虚弱に使う処方です。コーヒーを飲み過ぎて胃が重い・・・そんな感じが連日続きます。私はコーヒー好きなんですが、2杯飲むとすぐに胃が痛くなります。その時の痛みが毎日続くと想像するだけで憂鬱です。
脾胃の元気が足りない方は、手のひらで胃の辺りを温めてみると気持ちよかったりします。「胃腸虚弱の体質を改善しましょう」という場合は、この辺りの処方を足がかりとして使うことが多いです。
10年20年と持っていた慢性の胃腸虚弱は、服用してすぐ改善はしません。時間がかかります。
6.黄連湯
黄連湯の効能効果:胃部に圧重感があって、食欲減退、腹痛、悪心、嘔吐、口臭、舌苔などがあり、便秘または下痢するもの。胃腸カタル、口内炎、消化不良、胃酸過多症、宿酔。
いままではシクシクという虚弱な腹痛でしたが、こちらは「痛いなぁ・・・」という腹痛です。熱感や炎症に伴って、口内炎があったり、便がすごく臭い、熱いものがこみ上げてきたり、舌苔は黄色かったり。胃腸カタルとは胃炎全般を指す言葉です。
「痛みがある」というとなんとなく安中散と似ていますが、黄連湯は「熱傾向」がポイントです。
まとめ
店頭でよく見る症状、そしてドラッグストアなどで手に入りやすい漢方の処方をピックアップしてみました。よく起こる症状なら少し備蓄しておくと便利です。他にも色々な処方がありますので、ご相談ください。