麝香 じゃこう[和漢三才図会]

女性の患者さんとお話しをしていて、麝香(じゃこう)というとすごく「何だろう?」という顔をされますが、ムスクと言えば「あー」と理解してもらえます。シャネルのNo5の香りです。その有名なムスクについてのお話しです。

麝香(じゃこう)の「麝」。この文字だけで「ジャコウジカ」と呼びます。ジャコウジカの香り袋は昔、高額で取引されていました。現在ワシントン条約で保護されていてますし、元々からして高価な生薬なので、いま香水などには合成品が使われています。臭いの主成分はムスコンと呼ばれ、合成するのも難しいので高額なんでしょうね。

日本の医薬品は勝手に書法を変更して合成品を使う訳にもいかないので、保存していた麝香を消費して製造している状態です。

H27年には救心製薬の救心が成分変更をしました。麝香を抜いて鹿茸・沈香を配合、牛黄を増量して新発売となっています。「救心をお土産に・・・」という海外観光客が多かったため、麝香が枯渇したのかと思われます。中国ではほぼ麝香の正規品は手に入らない、という噂もありますから(^-^;;;;

目次

漢方として、麝香の使われ方

漢方としては麝香を「気の流れを良くする処方」として使います。「漢方=煎じて苦い汁を飲む」ようなイメージが強いですが、処方の中には紫蘇葉・薄荷などを使って香りでも改善させる処方もあります。西洋のアロマテラピーと似たようなイメージでしょうか。  麝香は特にその作用が強く、詰まってしまった気を強力に流します。

麝香の入った処方として、CMで有名な救心や、その救心製薬の特殊な処方で救心感應丸気、犬伏製薬の敬震丹などがあります。効能効果には「気付け・動悸」とかかれていますが、発表会・プレゼンでの緊張で動悸をしたときとか良く効きますよ。あがり症のひとには試して貰いたい生薬です。

麝香の本物を見る機会がありました。見た感じ栗のイガイガを乾燥し少し毛を柔らかくした感じです。かおりは「すごくいい!」わけではありません。変な匂いがします。これは薄めるとムスクの匂いになるようです。香水と一緒ですね、香水も濃度が濃すぎると臭く感じます。

麝香

江戸時代の百科事典、和漢三才図会(寺田良安著)に麝香についての記述があります。この辞典、魑魅魍魎が跋扈していた時代ですから麒麟が載っていたりと想像力豊です。今では眉唾な記述もありますが、それを差し引いても面白い記載もあります。著者は「麝」について本草鋼目を引用して記載しています。(※注 小曽戸先生によると、本草経集注[陶弘景]や、図経本草の文章を混合したものと考えられるようです)

 麝(ジャコウジカ)は麞(ノロジカ)に似てはいるが小さくて黒っぽい。(略)香りを発する部分は陰茎の前の皮の中にあり、膜袋があってこれを包んでいる。夏の時期は蛇や虫を食し、冬になると香りが盛んになる。春になると麝は臍の中が痛み出し自ら爪でこれを掻きだし自分の糞尿の中につけて隠してしまう。麝は同じ場所に生活して移動しないものだから人間はそれを探しだして取るのである。麝は本能的に臍を一番大切にしているものであり、もし人間に終われて窮地に立つと、断崖絶壁から身を投げ爪で臍をかきさき、香嚢を道連れにして死ぬ。その姿は四つの足を組んで臍を抱えているようである。(後略)

原文はこちらでも閲覧できます→ 近代デジタルライブラリー 和漢三才図会(わかんさんさいずえ) ページ番号95 まで飛ばしてください。麝香については救心のサイトにも詳しく書かれています。

参照:はあと通信2011.7No88 再発見伝統生薬の魅力15より引用 北里大学東洋医学総合研究所副所長小曽戸洋先生

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この記事を書いた人

福田優基のアバター 福田優基 薬剤師/国際中医師

ゆうき先生:漢方を専門に学ぶ薬剤師。大学卒業後、東京・高知の漢方薬局にて漢方を研鑽。漢方薬局の二代目として大阪に戻る。このサイトでは、身近な漢方であるようにと「分かりやすい言葉」で説明するように心がけています。

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