要約:この記事では、漢方薬「麻杏甘石湯」と「麻杏止咳顆粒」の効能と違いについて説明しています。これらは主に咳や気管支炎の治療に使われるもので、特に「麻杏甘石湯」は熱性の咳に効果的です。また、「麻杏止咳顆粒」はその強化版とも考えられ、より強い症状にも対応します。
市販の麻杏甘石湯のパッケージを見ると風邪のイラストと共に「つらい咳に!」と書かれていますので「風邪の漢方」というイメージが強いのですが・・・。咳があればマルチに使えるのが麻杏甘石湯です。
麻杏甘石湯の効能効果
麻杏甘石湯の効能効果をまず見てみましょう。
体力中等度以上で、せきが出て、ときにのどが渇くものの次の諸症:せき、小児ぜんそく、気管支ぜんそく、気管支炎、感冒、痔の痛み(ツムラ・一般用)
咳嗽はげしく、発作時に頭部に発汗して喘鳴を伴い、咽喉がかわくもの。気管支炎、気管支喘息(コタロー)
風邪の有名な処方「麻黄湯」の効能効果は「感冒、鼻かぜ、気管支炎、鼻づまり」です。麻杏甘石湯の効能効果は「喘息・気管支炎」です。
あれっ?「喘息」といわれると、風邪だけじゃないの気がしませんか?
喘息や気管支炎についてWebで調べてみると・・・
そう、麻杏甘石湯は風邪の症状だけに限定していません。肺・気管支の炎症によって起きる咳・たん・息切れ。咳があればマルチに使えるのが麻杏甘石湯です。
麻杏甘石湯は熱性の咳に
咳なら何でもOKってすごく便利ですね!
・・・ちょっと言いすぎました。すいません。漢方的には、なんでもOKではありません。
「咳の症状」をざーーっくりと4つに分けて考えます。寒熱を縦軸、痰の有無を横軸にして図にしています。寒熱とは「咳・のど・痰の状況」です。痰とは「物理的な痰の有無」、のどに引っかかるアレがあるかないか、咳は乾燥しているか、痰は粘稠かサラサラか。
ざっくりと分けていますが、麻杏甘石湯は「熱(陰虚熱)があり・粘稠性の黄色い痰があり」の右上の「咳」に使います。わかりやすい例なら「風邪の後期」ですね、高熱は落ち着いて微熱になったけれども、咳と痰だけが続いたり。風邪以外の場合ももちろん使えます。
麻杏甘石湯の構成
もう少し詳しく見てみましょう。
麻杏甘石湯の基本骨格は「三拗湯(さんようとう)」といわれる「麻黄・杏仁・甘草」です。「麻黄・杏仁」でコントロールできなくなった肺気のバランスをとります。そのうえで、炎症を抑える「石膏」を加えています。
咳が続くと胸のあたりが熱くなります。喉もカラカラに乾燥もしますし、口も乾く。こうした熱感をとり乾燥を潤してくれるのが「石膏」です。
4つの主力級の生薬とシンプルな処方でバランスもいいのですが、サポーターになる生薬がいないんですよね。イスクラ産業さんの麻杏止咳顆粒、図の緑の矢印で書いていますが、これは麻杏甘石湯の強化版です。「麻杏甘石湯」に「+桔梗石膏+六一散(滑石+甘草)」というサポーターを加えたため、確かに良く効きます。
気管支喘息・喘息の漢方での考え方
漢方では「肺に痰のようなもの」が溜まって呼吸困難や喘息につながると考えています。喘息は風邪などと違い体質的な問題が根底にあります。例えば、
1:恐れ・生活習慣の乱れ→腎を傷つける
2:ストレス→肝気が溜まり脾胃を傷つけ痰を作る
3:過労→脾胃を傷つける
4:抑うつ→肺を傷つける
5:もともとの弱さ→腎の機能が低下している
などを考えつつ、それに合わせた漢方処方を使います。一見したところ「肺とは関係ない」処方もありますが、そうした体質改善のために使われていることが多いです。
麻杏甘石湯の継続期間
麻杏甘石湯は服用してすぐ効果を感じることが多く夕方服用しておくと「よく眠れたー!」と喜ばれることも。風邪の後期の場合は、だいたい1週間程度で様子を見ます。その後は継続か、潤す系(清肺湯・麦門冬湯など)の処方に移行します。
気管支喘息などでは少量にして長期にお勧めする場合もあります。その時は、別の体質を治すような処方の併用も検討します。
類似処方:麻杏止咳顆粒・五虎湯・神秘湯
麻杏甘石湯は、三拗湯(麻黄・杏仁・甘草)+石膏の処方です。それをベースとしていろいろな処方が存在します。麻杏止咳顆粒は麻杏甘石湯の強化版で麻杏甘石湯+桔梗石膏+六一散、滑石など虚熱を冷ます効果がUPしますから、効果はいいなと思います。
麻杏甘石湯に+桑白皮を加えると五虎湯と呼ばれます。ゼイゼイとひどい咳や口渇に使われます。さらに+二陳湯を加えると五虎二蔯湯。吐き気やエヅク場合に使いますが、、、私はどちらもあまり使ってません。昔はドラッグストアにも置いていましたが、今はもう見かけませんね。
他に似た処方として、神秘湯があります。石膏を抜いて気の流れを整える生薬(陳皮・厚朴・柴胡・蘇葉)が入っています。虚熱をとる効果は薄くなりましたが、柴胡も入ってバランスの良い処方ですね。効能効果をみると小児喘息・気管支喘息となっています、その通り、麻黄が入っていないので激しい咳には使いません。
麻杏甘石湯 | 神秘湯 |
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麻黄・杏仁・甘草 石膏 | 麻黄・杏仁・甘草 陳皮・厚朴・柴胡・蘇葉 |
喘(ぜい)と哮(ごう)
漢方では喘息を喘・哮に分けて考えます。
喘:呼吸困難で、大きく口を開いて喘い(あえい)で息をする
哮:呼吸困難で、喉の奥からヒューヒューと音がなる【喘鳴】
喘息のときには喘哮どちらも起こりますから、あんまり違いを気にしなくても大丈夫です。
併用したい処方
麻杏甘石湯はシンプルでよい処方なのですが、「柴胡」など気の流れを整える生薬が不足しています。小柴胡湯・柴陥湯などは併用しやすい処方です。
麻杏甘石湯の症例
症例:45歳女性、風邪を引いて1週間。熱は治まったが咳だけ残る。病院からは麦門冬湯を処方されたが変わらない。むせるような咳、黄色い粘ったような痰がでる。朝起きると咳がひどく、一度で始めると激しく止まらない(後略)
病院でもコロナ以降はよく咳に対して「麦門冬湯」を使うようになりました。ただ、このケースに関しては一時期、麦門冬湯を中止して、麻杏甘石湯と◯◯◯湯を併せて使っていただきました。1週間程度で咳に変化があり、その後は麦門冬湯に戻してもらったという例です。