漢方薬局で相談をすると出てくる「腎(じん)」という単語。
薬局の先生方はあまりに説明をしすぎて、当たり前のように使ってしまいます。不妊症の時は「あなたは腎が弱くてね」、腰が痛くなれば「腎が低下しています」、ご高齢で冷えが酷ければ「腎陽虚ですね」とまぁほんと、よく使います(^-^;;;;
ただ、患者さんとしては「何この単語?」と思いつつも、指摘できず「腎臓のことかな?」と曖昧に受け止められているかもしれません。先生方も、有限の相談時間で細かい話まですべてお話しすることもできませんので、反省がてら腎のなかでも「腎を補う(補腎)」について記載してみたいと思います。
【先に答えから】漢方でいう「腎」は臓器だけではなく、成長・発育・生命力・ホルモンバランスなど身体全体の基礎的な力を指す概念です。「補腎(ほじん)」とは、この腎の働き(=根源的な力・生命エネルギー)を補い、体のバランスを整えることを指します。
「腎」は腎臓ではない:漢方での定義
まず大前提です。
漢方薬局ではなしている「腎」という単語。漢方の「腎」と臓器の「腎臓」は別物です。漢方の腎という言葉は腎臓も含みますが多分に概念的です。2000年前には顕微鏡や分析装置はありません。
古典にはこう書かれています。【腎は精を蔵し、成長・発育・生殖をつかさどる】
シンプルな言葉に色々な意味が込められています。腎を腎臓ではなく下半身のそのあたり、と考えると前立腺やら副腎やら膀胱もお仲間ですから全く的外れな話でもありません。そして腎臓のメインの仕事は尿を作ることですが、他の臓器の司令塔でもあり、成長や発育もつかさどっています。NHKスペシャル人体でも放送されていましたので、ご覧ください。面白いですよ。
浮かび上がってきたのは、腎臓が体中に情報を発信しながら、さまざまな臓器の働きをコントロールしているという驚きの姿。腎臓を操れば、脳卒中や心筋梗塞の原因となる重症の高血圧を一挙に改善したり、多臓器不全を未然に防いだりという驚きの成果も報告されている。NHKスペシャル シリーズ 人体 神秘の巨大ネットワーク 第1集「“腎臓”が寿命を決める」
先程のお話ですが、
- 成長が遅い、回復力や元気の低下→生命エネルギーの少なさ
- 冷え・疲れやすさ・風邪を引きやすい→生命エネルギーの少なさ
現代医学では検査数値でわからない項目ですが、漢方では「生命エネルギーや身体全体の基礎エネルギー」として評価されています。これらを漢方では「腎の力が不足している」と考え「補腎」こそが治療目標になることがあります。
腎の働きとは?
さらに詳しくお話しすると腎の働きについて大きく3つが記載されています。
- 精気をしまい込んで蓄える
- 腎は水液をつかさどる
- 腎は納気をつかさどる
この時点で「なんやねん」と思いますよね(^-^;;;; ゆっくりと解説しますのでちょっと待ってください。今回はこの中でも大切な「精気をしまい込んで蓄える」についてお話しします。下に図を書いてみました(大学の講義ノートみたいなの、久しぶりに書きました)
腎は精気をしまい込んで蓄える
中央の卵みたいなのが「腎」です。ここではガスタンクみたいな働きをしています。中にはガスならぬ「腎精」が入っています。腎精は腎に蓄えられたエネルギー(精)の意味です。
このガスを補給するのが、先天と後天の二通りの方法がありまして、先天とは父母やご先祖様から戴いたもの。後天とは食事を食べて脾胃で消化し精製されたものです。
先天は遺伝子、体質、腸内細菌、ミトコンドリア、色々と考えられると思います。植物でいえばタネから初めて出てくる双葉みたいなもの、両親から受け継いだ体質や生命力の元です。これから生きていく起源となるものです。
そして、後天は、生きていくうえで日々使うエネルギーを補給すること、食事を通じて体に取り入れられる栄養です。取り込み体に適合した形に作り変え、成長していきます。特に、腎精を養うには食事がとても大切なんです。
先天(せんてん):両親から受け継いだ体質や生命力の元
後天(こうてん):食事を通じて体に取り入れられる栄養
こうして蓄えられた腎精ですが、腎で使われたり、他の臓器に送られたりして色々と利用されます。

腎陽・腎陰のイメージ
腎精はエネルギーとして腎陽と腎陰として使われます。
- 腎陽 : 体を動かす・体を温める
- 腎陰 : 体を潤す・養う
体の基本的な、大切な作用です。年月が経つと腎陽や腎陰の機能は低下します。どちらかが低下する場合も、片方だけが低下する場合もあります。
私の「腎陽の低下」のイメージって、冬に鍋をしていたらガスボンベにガスが入ってない~~!!(怒)ってイメージです。ダイヤルをひねっても出力が上がらないんですね。「腎陰の低下」のイメージは、冷却水が漏れて不足しているというイメージ。
もしくは車のタイヤがカスカスになってひび割れてる、ってイメージです。冷やしたり潤わせたり、成長や養育もですね、できなくなります。
こうした低下は漢方では虚といいまして、ご高齢になると大なり小なり腎陽の虚(腎陽虚)・腎陰の虚(腎陰虚)は起こってきます。ちなみに、腎は外部とあまり接触が無いので「亢進する(実証)」よりも「低下する(虚証)」場合が多いんです。
腎陽と腎陰のバランスが大切
気をつけて欲しいのは、腎陽、腎陰どちらも腎精を使った作用です。どちらかが大きくなっても小さくなってもバランスが取れません。バランスが大切なんですよ。

ちなみに、腎陰も腎陽も「使って減ります」から虚証がほとんどです。
補腎の意味
ということで漢方の先生に「補腎(補腎陽)が必要ですね」と言われた場合は
「腎」の作用が弱まっています。食事や脾胃のバランスを取ることは、根源のエネルギーである腎精を生み出すのに大切だから気をつけてね。今回はこの処方を使って腎精を補って上げましょう。体の元気を作ったり温めたりする腎陽の作用が弱まっているのも、この処方で調整できますよ。
というような意味だったりします。腎にはまだ説明していない機能が他にもありますので、それもそのうち解説していきたいですね。
詳しく勉強されたい方は素敵な本がたくさん出版されておりますので、そちらをご覧ください。「中医基礎理論、滝沢健司先生 東洋学術出版社」「傷寒論 白石佳正先生 谷口書房」あたりはお勧めです。

