下痢に下剤 一見矛盾した治療法
下痢に下痢止めの薬を用いるのは、あたり前のやり方だが、漢方には下剤を用いて治療する方法がある。[漢方漫歩より]
腹痛で下痢をしたが、水様便の中に硬い糞の固まりが混じり、排便後もスッキリしないような時、腸内の異常発酵で、便に腐った卵のような悪臭があるようなケース、抗生物質を使い過ぎたために起きる急性腸炎、さらに細菌性赤痢の初期段階などに、この方法を用いるとよい。
下痢を下剤で治療するという一見矛盾した治療法は、漢方でいう、反治法(通常とは反対の治療法)に属する方法で、「通因通用」法といわれる。たとえば、大黄などの下剤によって、宿便(滞留便)だけでなく、病菌や毒素、壊死して脱落した腸粘膜などを一掃できる。これにより中毒症状が速やかに緩和され、腸粘膜の血行も改善され、細菌が死滅して下痢も止まることになる。
そのあとで、香砂六君子湯、参苓白朮散、焦三仙などのような、胃腸の機能を増強し、消化を促進する処方を用いるとなおよい。 また、重傷の便秘治療に用いられる浣腸法で、下痢を治す方法もある。このやり方は難治性の下痢、粘血便などの症状を特徴とする潰瘍性大腸炎などに応用すると、特に効果が高い。
浣腸法の利点は、薬を直接患部に作用させ、しかも胃に対する刺激を避けることができる点である。
浣腸液は、例えば腸の血流を改善する丹参・当帰や、収斂止血する五倍子、明礬、粘膜を保護し、潰瘍を修復する烏賊骨、殺菌力のある黄連・白頭翁などの生薬からなっているため、総合的な効果が得られる。
袁 世華(中国・長春中医学院教授) 讀賣新聞日曜版『漢方漫歩』1995/8/6