清湿化痰湯|背中の冷えや重だるい痛みに。“湿と痰”が原因の神経痛・関節痛への漢方アプローチ

清湿化痰湯

「清湿化痰湯(せいしつけたんとう)」は、名前から「痰・咳」に使われる処方・・・と思いがちですが、実は痛み(痺証:ひしょう)の処方として販売されてます

特に、重だるく痛むタイプの神経痛・関節痛・筋肉痛、漢方の用語でいえば「湿と痰」による痛みに有効です。現在、病院での保険適応はされておらず、一般の薬局で【清湿化痰湯 エキス細粒G「コタロー」 小太郎製薬】として販売されています。

今回は、あまり知られていない「清湿化痰湯」の使い方と、類似処方との比較を交えながら解説します。

原典では「湿と痰」によって痰結して胸郭痛、首筋辺りに結核(塊)、麻痺、様々な症状が起こると書かれていますから、神経痛・関節痛・筋肉痛に留まらず応用範囲が大きな処方です

目次

清湿化痰湯とは? “湿”と“痰”がたまると、痛みが起こる

まずは効能効果から見ていきましょう。

効能効果:体力中等度以下で、背中に冷感があり痛みがあるものの次の諸症:神経痛、関節痛、筋肉痛

当サイトを見ていただいている方でしたら、同じような処方の解説・・・ありましたよね。そう、疎経活血湯、独歩顆粒。これらの処方の効能効果には神経痛や関節痛と書かれています。

同じ効能効果の神経痛や関節痛でも漢方的には「原因」が違い、清湿化痰湯は「痰・湿」の改善を目的に作られました。痰・湿とは、体の中の“余分な水分”もしくは”何か”が滞り、気血の流れを妨げる状態を指します。

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「川の流れをせき止める石、これが痰湿」です。“湿と痰”が経絡(けいらく:気血が流れる通路)をふさいでしまうと、気のエネルギーと血液の流れが悪くなり、重だるい・冷える・痛むといった症状が現れます。

症例集を読みますと、肋間神経痛に使う場合も多そうです。肋間神経痛といえば、肋骨の間の神経が刺激されて痛みが生じる症状ピリッとした鋭い痛みにイライラが募ります。原因は帯状疱疹やヘルニア・脊柱管狭窄症や外傷などがありますが、痛みに悩んでいる方は試してみる価値はあると考えています。

効能効果には「背中に冷感があり」と書かれています。実際、原典の【寿世保元】には「背心一点氷のごとく冷え」との記載もあります。「肩甲骨の間辺り」に冷感を感じる方や、そうでもない方もおられますので、・・・目安かな・・・

痰湿による痛み(痺証)の特徴

  • 雨の日や湿気の多い日に悪化する
  • 背中や関節が重く、しめつけるように痛む
  • 痛みの部位がはっきりしない
  • 舌に白く厚い苔がある
  • 体がだるく、頭が重い

このような状態は、いわゆる「湿痰阻絡(しつたんそらく)」による痺証。
清湿化痰湯はこの“湿痰”を取り除き、気血の流れを回復させることで痛みを和らげます。

清湿化痰湯の構成と二朮湯との違い

清湿化痰湯の構成生薬を二朮湯と比較して考えてみましょう。

「二朮湯」は効能効果としては「五十肩(肩関節周囲炎)」、肩の痛みによく使われる処方です。構成生薬を見ると、まさに清湿化痰湯と最も近い位置づけの処方です。

二朮湯は「蒼朮(そうじゅつ)・白朮(びゃくじゅつ)」の「二つの朮」を中心に構成され「湿を除き、気を巡らせ、経絡を通す」ことを目的とします。

処方名共通
清湿化痰湯半夏・陳皮・茯苓・生姜・甘草
蒼朮・天南星
黄芩
白芷
白芥子
二朮湯威霊仙・香附子
茯苓

共通点が多いですね。二陳湯(半夏・茯苓・陳皮・生姜・甘草)を基本骨格としているのは一緒で、方向性も大体一緒になっています。

二朮湯との違い

文献をもとに整理すると、
二朮湯は主に上半身(特に肩や腕など)に現れる痛みに使われるのに対し、清湿化痰湯は全身の痛み(上焦・中焦・下焦)に対応します。

つまり、清湿化痰湯の方がやや広い範囲の「湿痰痺証」に適応し、背中の冷えや腰を含む痛みにも応用しやすい処方といえます。

清湿化痰湯の働き:痛み止めとは違う「巡りの改善」

西洋薬の鎮痛剤(例:ロキソニン)は、痛みの信号を遮断して症状を抑えます。
一方、漢方では痛みの原因となる「滞り」を取り除き、再発しにくい体に整えることを目的としています。

清湿化痰湯の配合を見ると:

  • 天南星・半夏・茯苓:水分代謝を整え、湿と痰を除く
  • 陳皮・生姜・甘草:胃腸を動かし、温め、消化吸収を助ける
  • 黄芩:滞ることで発生する熱を鎮める

このように、胃腸を整えて湿痰の発生を防ぎつつ、炎症を鎮め、巡りを良くするのが清湿化痰湯の特徴です。

まとめ:湿と痰をさばいて、体を“通す”

清湿化痰湯は、「単なる痛み止め」ではありません。湿と痰が滞ることで起こる痛み(痺証)に適応する処方です。

背中の冷感や重だるい痛み、湿気で悪化する関節痛・筋肉痛など、温めても改善しない痛みの背景には「湿・痰」が潜んでいることがあります。清湿化痰湯は、その滞りを取り除き、体の内側から通りを良くすることで痛みをやわらげていきます。

痛みのタイプが合えば活躍する一方、「冷え」「虚弱」「腎虚(肝腎虚)」が強いタイプでは、桂枝加朮附湯や独歩顆粒など、他の処方との比較も大切です。気になる方は、ぜひ専門家にご相談ください。

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この記事を書いた人

福田優基のアバター 福田優基 薬剤師/国際中医師

ゆうき先生:漢方を専門に学ぶ薬剤師。大学卒業後、東京・高知の漢方薬局にて漢方を研鑽。漢方薬局の二代目として大阪に戻る。このサイトでは、身近な漢方であるようにと「分かりやすい言葉」で説明するように心がけています。

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