槐角丸と乙字湯の違い|痔の漢方薬はどう使い分ける?

この記事では「槐角丸と乙字湯の違い」「それぞれが向いている症状」「実際の使い分けの考え方」を、漢方的な視点でわかりやすく解説します。

槐角丸(かいかくがん)と乙字湯(おつじとう)は、いずれも痔の症状で用いられる漢方薬です、乙字湯は雑誌で取り上げられていることもあり有名ですね。どちらも「痔に効く漢方」ですが、処方の考え方・得意とする症状・使い分けのポイントは異なります。

目次

痔を漢方で考える「肛門の病気」ではなく「体のサイン」

「痔」について漢方的に解説してみましょう。痔というと「堅い便のトラブル」「座りすぎ」「冷えた」といった局所的な病気として捉えられがちです。

漢方では、痔を「体の内側の不調が、肛門という部位に現れた状態」と考えます。そのため、漢方では「痔そのもの」に加えて「なぜ痔ができたのか」の両方を見ることが大切です。

痔は「血」と「流れ」のトラブル

漢方では、痔の多くは次のような要素が重なって起こると考えます。

  • 血の巡りが悪い(瘀血)
  • 熱がこもる(湿熱、もしくは燥熱)
  • 大腸/自律神経の乱れ(大便失調)

痔はバランスが崩れた結果として現れる症状で「いかに弁証論治するか(東洋学術出版社)」では、さらにその原因(病因病機)を

  • 飲食の失調(暴飲暴食→燥熱湿邪の停滞)
  • 大便失調(大便が局部を圧迫→瘀血の発生)
  • 運動失調(座りすぎ・冷えるなどで血脈不良→瘀血の発生)
  • 妊娠・多産(脾胃気虚により瘀血の発生)
  • 慢性疾患(臓腑虚弱)

と分けて、痔の症状の改善と共に、生活習慣の改善も説いています。例えば、槐角丸で症状が改善された→→その後に補中益気湯を服用する、といった「ケアの漢方」を使うことで次の痔の悪化が防げます

槐角丸と乙字湯の効能効果

槐角丸と乙字湯の効能効果を表にしてみましょう。

イスクラ槐角丸次の症状の緩和:内痔核、外痔核、裂肛、痔出血、痔の痛み
乙字湯(ツムラ)体力中等度以上で、大便がかたく、便秘傾向のあるものの次の諸症:痔核(いぼ痔)、きれ痔、便秘、軽度の脱肛

たしかにどちらも「痔」と書かれています。ただ、少し違いますね。槐角丸はどちらかというと痔本体について、乙字湯は「痔と便秘」が強調されている印象です。

槐角丸はイスクラ産業からのみ販売されています。
乙字湯は医療用漢方(病院の処方)と、一般用漢方(ドラッグストアなどでの処方)のどちらも販売されています。

槐角丸と乙字湯の構成と違い

槐角丸と乙字湯の構成生薬を比較してみると、だいぶと違うことに気が付きます。

処方名共通の生薬異なる生薬
槐角丸黄芩・当帰槐角・地楡・防風・枳実
乙字湯黄芩・当帰柴胡・升麻・大黄・甘草

黄芩と当帰は一緒ですが、後は違いますね。これだけでは分かりづらいので、図にしてみました。乙字湯が左、槐角丸が右です。

中央の「熱が籠もる」ことの改善に、手厚く生薬を組み込んだのが槐角丸です。

槐角丸とは?

中心となる生薬は「槐角(かいかく:エンジュの果実)」で、古くから止血作用を期待して使われてきました。槐角丸には、槐角・地楡(ちゆ)・黄芩・防風と多くの炎症を抑え、出血を止め、痛みを抑える生薬が入っています。なかなか強力なラインナップですよ。当帰は患部の血流を促進します。枳殻(枳実)は腸の蠕動運動を整えて、便通を改善します。

槐角丸は、痔からの出血が気になる・排便時にヒリヒリする・鋭い痛みがあるなどの炎症や腫れが主体のタイプに使います。

槐角丸の歴史

1971年にイスクラ産業から日本で初めて輸入された槐角丸は、1977年に浸膏槐角丸(イスクラ産業)として販売。2010年にイスクラ浸膏槐角丸に改名(薬事上の理由で)。2020年に浸膏槐角丸が製造中止に伴って、八ツ目製薬製造イスクラPB品として精華槐角丸が販売。2026年に精華槐角丸が製造休止に伴って、イスクラ産業製造販売の「槐角丸」として販売される。と、数奇な運命を辿っています。

ニッチな処方ではありますが、無くなると困る。服用していた人は良さがわかる隠れた名処方です。

浸膏(しんこう)とは、主に生薬をアルコールなどの溶剤に浸して成分を抽出した、濃縮された液状または半固形状の製剤のこと

この商品はオンライン販売しておりません。

乙字湯とは?

乙字湯は、痔そのもの・・・だけでなく、痔を悪化させる背景「便秘・いきみ」にも目を向けた処方です。
構成生薬の中に大黄が含まれており、便通の調整が大きなポイントになります。排便時に、いきむことで脱肛あるいは痔核がひょっこりと顔を出すタイプには最適です。

黄芩・大黄で消炎・通便・止痛に働き、当帰で患部の血流を促進。升麻や柴胡で肛門の筋肉の緊張を調整して、脱肛や痔核を治します。大黄は緩下剤の働きがあるため、便秘の改善にも役立ちます。ただ、痛い場合は槐角丸に「酸化マグネシウム+ビオフェルミン」のような製品を併用するとか・・・をおすすめしたいです。

痔の処方を効かせるポイント!

痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)の場合、便秘気味だったり便が硬い場合は乙字湯を、それ以外にも大黄牡丹皮湯・桃核承気湯、茵蔯蒿湯(酒毒による痔)を使うこともあります。出血傾向や痛みが酷い場合は、槐角丸を使っています。さらに痛いなら槐角丸+麻杏甘石湯もいいですね。

痔瘻(あな痔)基本的に病院を紹介しています。トンネルになったものは自然に治らないので、ほぼ手術対応になります。が、手術の日程まで痛みをなんとかしたい、そんな場合は漢方の出番です。

漢方をより活用するために

槐角丸も乙字湯もそれだけでも・・・十分効果はある良い処方なのですが、漢方をより活用するならもう一歩踏み込みたいところ。

もし出血傾向が強ければ、槐角丸にプラスして芎帰膠艾湯や田七人参を加えます。温めすぎないように寒熱のバランスを考えて。
出血が多ければ隠れ貧血になっている場合も。槐角丸で改善している間に、帰脾湯や十全大補湯などで気血を補い傷の回復を促します。痔とともに不眠・不安のある女性でしたら、どちらも一緒に治ってしまいます。
裂肛の場合は「塗り薬」も有効です。ボラギノール・・・もいいですが漢方の外用薬「紫雲膏」はオススメです。

毎日の痔の対策、といえば一般的には毎日便秘薬になりがちですが、漢方を知ると最初にお話しました「痔の原因」を解消するために

飲食の失調(暴飲暴食→燥熱湿邪の停滞)→脾胃の改善:香砂六君子湯+山楂子など
大便失調(大便が局部を圧迫→瘀血の発生)→乙字湯の継続
運動失調(座りすぎ・冷えるなどで血脈不良→瘀血の発生)→冠元顆粒など
妊娠・多産(脾胃気虚により瘀血の発生)→芎帰調血飲第一加減・補中益気湯など
慢性疾患(臓腑虚弱)→加味帰脾湯や十全大補湯など

という漢方処方も考えられます。また上記以外でも、仕事でのストレスが強ければ腸の動きも悪くなりますから自律神経のバランスを改善するのに肝の気を流す処方(加味逍遙散・女神散)を日常的に服用したほうがいいかもしれません。そういった生活に応じたアフターフォローができるのも、漢方の良いところです。

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