インフルエンザと風邪と麻黄湯

インフルエンザに麻黄湯!といわれますが、麻黄湯は風邪全般に使える基本的な漢方処方です。漢方って即効性が無いんじゃ?!と思われがちですが、しっかりとよく効きますよ。

目次

麻黄湯の効能効果

麻黄湯の効能効果を添付文書で見てみましょう。

[st-mybox title=”効能効果” fontawesome=”fa-check-circle” color=”#757575″ bordercolor=”#BDBDBD” bgcolor=”#ffffff” borderwidth=”2″ borderradius=”5″ titleweight=”bold” fontsize=”” myclass=”st-mybox-class” margin=”25px 0 25px 0″]

体力充実して、かぜのひきはじめで、さむけがして発熱、頭痛があり、せきが出て身体のふしぶしが痛く汗が出ていないものの次の諸症:感冒、鼻かぜ、気管支炎、鼻づまり

[/st-mybox]

特に、風邪の引き始めというのが大切です。感覚的には「おかしいな?!」と思って1時間以内ならスッと治る気がします。寒気と発熱は逆のように見えますが、寒気>発熱の場合です。寒気が無い場合は別の処方になりますよ。

麻黄湯の構成生薬

麻黄湯は4つの生薬から成り立っています。

[st-mybox title=”構成生薬” fontawesome=”fa-check-circle” color=”#757575″ bordercolor=”#BDBDBD” bgcolor=”#ffffff” borderwidth=”2″ borderradius=”5″ titleweight=”bold” fontsize=”” myclass=”st-mybox-class” margin=”25px 0 25px 0″]

麻黄・桂皮・甘草・杏仁

[/st-mybox]

漢方の書籍では「桂枝」と書かれていますが日本の製品では「桂皮」を使っています。すごく効果が違うのか!といわれると、数日使う分には大丈夫です。それほど違いはありませんよ。

漢方的な考え方

漢方では麻黄湯の効果を「辛温解表(しんおんげひょう)・止咳平喘(しがいへいぜん)」といいます。風寒の邪気(寒邪)が体表部から侵入するのをグイッと追い出す漢方薬です。

体は寒邪に対抗するために、汗腺を閉め、筋肉を緊張させ、体温を上昇させようとします。なのでゾクゾクとして(悪寒)、汗は出ないが発熱(微熱)があり、頭痛があったり首のあたりが痛くなったり。鼻水、咳も起こります。

普通の風邪であってもインフルエンザであっても、初期ならばまず麻黄湯や葛根湯などで大丈夫です。

麻黄湯とインフルエンザ

病院ではインフルエンザに「タミフル・イナビル・リレンザ・ゾフルーザ」などの抗ウイルス薬も処方されるようになりました。

ただ、抗ウイルス薬はウイルスの耐性化の問題もあり、乱用できません。例えば、

  • インフルエンザ検査は、ウイルスの量が増える感染後24時間程度で検出可能(超早期の場合は服用できない)
  • タミフルなどはウイルスの増殖を抑える処方のため、発症後48時間以内なら投与の効果は大きいが、それ以降では効果は落ちる
  • 耐性が起きやすいと言われている(※ゾフルーザ)

自然に治癒できる通常の風邪やインフルエンザに、抗ウイルス薬をこんなにバンバン使っていいのか。自分の抵抗力で治す方がいいのではないか、風邪の時ぐらいゆっくり寝ていてはどうか、という話もあります。

またそういった流れから漢方を見直す動き、インフルエンザに関連して、漢方の麻黄湯が有効との記事も繰り返し書かれています。

 インフルエンザの治療に漢方製剤の「麻黄湯(まおうとう)」を使うと、抗ウイルス薬のタミフルと同じ程度の症状軽減効果があるという研究結果を、福岡大病院の鍋島茂樹・総合診療部長らが明らかにした。
新型インフルエンザへの効果は未確認だが、タミフルの効かない耐性ウイルスも増える中、注目を集めそうだ。

麻黄湯とタミフルの比較

新型インフルエンザに対する効果ではありませんが、2005年に小児のインフルエンザにおける、タミフルとの比較をしている記事があります。 *1  結論としては、

治療開始から解熱までの時間を見てみると、オセルタミビル投与群では平均31.9時間、麻黄湯・オセルタミビル併用群では平均21.9時間、麻黄湯単独群では17.7時間で解熱効果が得られた

と、麻黄湯の有用性が確認されています。(もちろん、タミフルと麻黄湯は作用が違います)

(前略)インフルエンザ感染症に対する漢方薬の有効性を検討した比較的規模の大きい研究は2011年に報告されている。筆者の知る限り、インフルエンザ感染症に対する漢方薬の有効性を検討した質の高いエビデンスはこの【論文1】*2のみである。(後略)インフルエンザに対する漢方薬の効果は?青島周一の「医療・健康情報を読み解く」  

こちらは医療者向けの会員サイト日経DIで青島先生が論文記事を紹介しています。(会員サイトなので)具体的な引用は避けますが、解熱までの時間の中央値は、「治療無し(26時間)>タミフル(20時間)>麻杏甘石湯+銀翹散(16時間)>麻杏甘石湯+銀翹散+タミフル(15時間)」という結果・・・だったようです。

純粋に漢方薬が見直されていることは、うれしい話です。ただ注意していただきたいのが「麻黄湯はタミフルの代替品!(麻黄湯を飲んどけば治る!)」というモノでもありません。

漢方的な麻黄湯の使い方とは?

麻黄湯について説明します。麻黄湯は昔の漢方の書物、傷寒論しょうかんろんに紹介されている漢方薬で、麻黄、桂枝、杏仁、甘草の4種類の生薬が組み合わされた処方です。

書物には「ぞくぞくっとして、やや発熱(それほどひどくない)、節々が痛み、汗がほとんど出ていない」こういった風邪の初期に効果があると書かれています。

「漢方的な」、とおかしな枕詞をつけました。症状や体質に応じて服用するのが漢方薬の特徴ですので、インフルエンザと限定せずに、すべての風邪や症状に使うことが出来ます。時期によって麻黄湯が効果がある場合もありますし、別の処方がよい場合もあります。

例えば、風邪で発熱している中期や汗が出ている時期、また気血を消耗している状態(重篤な病気にかかっているなど)の時には使用しません。

タミフルと麻黄湯どちらを使えばいいの?

風邪の予兆を感じたとき。例えば「悪寒」を感じたときすぐには「麻黄湯」が良く効きます。このあたりこそが漢方の真価です。1日経ってしまって高熱がでた、ボーッとしてきた、+周りでインフルエンザが流行っている、こんなときは病院を受診してタミフルやリレンザもいいかもしれません。普通の風邪で体力があるなら寝るのが一番です。

タミフルも麻黄湯も時期が大切です。ごく初期なら本当に漢方薬は良く効きます。

麻黄湯の用法用量

大人は1回1包、1日3回、1日で7.5g(ツムラの医療用の場合)です。空腹時がベストですが、風邪かな、と思ったその時は空腹を待たずに急いで服用するほうがいいでしょう。時折、小児にはどの程度服用させればいいのか?というお問い合わせを頂きますが、一般的に、漢方では西洋薬ほど小児量がきっちり決まっていません。漢方薬は病状によって加減すること、生薬同士の相乗効果で薬効を発揮するので一定の濃度以上が必要、個体差が大きい、など理由があります。

ただ「子供量」としての目安は以下のようなものがあります。

3~7歳未満 7~11歳未満 11~15歳未満 15歳~
1/6~1/3量 1/4~1/2量 1/3~2/3量 1/2~1量

大人量を1として換算(上記麻黄湯は医療用ツムラのエキスの場合です。10~15歳まで2/3、 5~10歳まで1/3、  1~5歳まで1/4~1/5という文献もあります。小児の服用につきましての詳細は、医師または薬剤師にお尋ねください。

麻黄湯の服用方法

麻黄湯はタイミングが重要です。ゾクゾクとしたときに服用しましょう。発汗を促す処方ですから、すでに発汗している場合は別の処方です。空腹時がベストですが、おなかがすくのを待つよりも、おかしいなと思ったときに服用することをお勧めしています。

服用時は温かいお湯(80~100cc程度)に溶かして、もしくはお湯と一緒に服用します。体を温める処方ですから。冷たい水で服用しては・・・効果に良くないですよね。

麻黄湯は何日ぐらい服用するか

効果が出るまでの時間はどの程度でしょうか、

[st-kaiwa5]麻黄湯は何日ぐらいで効果がありますか?[/st-kaiwa5]

[st-kaiwa1]数時間です[/st-kaiwa1]

麻黄湯は効果の早い処方です。服用してみて汗が出ない、温かくならない、悪寒がとれない、ならば。服用量が足りなかったか、処方が違ったか(時期が遅かった)、暖かさが不足していた(お風呂に入る、熱いうどんを食べるなどで暖まりきらなかった)に違いありません。

風邪の邪気は数日で変化しますので、麻黄湯を使う日数はせいぜい3日程度です。それ以降は症状が変わっていたり、別の処方にしたりとコロコロと変わります。

麻黄湯の液剤(ドリンク剤)は効くの?

ドラッグストアで麻黄湯の一本飲みきりタイプ、ドリンクが販売されています。確かにすぐに服用できて便利ではあるのですが・・・。どうしても冷たいですし、腐らないように添加物も多い。できれば、粉を溶かすことをお勧めしています。

麻黄湯の副作用

麻黄湯の副作用として、悪心(胸がムカムカする)・動悸などを聞くこともありますが、それ以外はほとんどありません。血圧が高いなどで動悸のしやすい方は別の処方が無難です。

ご高齢者に麻黄湯を服用させて汗が止まらない、という問合せがありました。ドラッグストアで麻黄湯を買ってきて飲ませたらしいです。当薬局の場合はですが、高齢者には桂枝湯などの別の処方に変更します。すでに発熱をしている・発汗している場合は、麻黄湯よりも涼解楽や天津感冒片といった「風熱」の処方を使いましょう。

身体に違和感を感じるのは「夜間」が多くありませんか?そのおかしいと思ったときが服用のタイミングです。常備薬とすることをお勧めしています

麻黄湯とカロナールの併用

風邪で病院を受診すると「解熱薬ですよ」といってカロナール(アセトアミノフェン)が処方されることがあります。カロナールに発熱の予防という意味はありません。発熱している段階でカロナールを使うのは有効です。麻黄湯と併用してもいいですよ。

ただし、私は「ある程度体温を上げて発汗を促す」ことが必要と考えていますので「発熱でほんとうにしんどいときに、カロナールなどの解熱薬を服用してくださいね」とお伝えしています。

体験、麻黄湯を服用して良かった話(口コミ)

私の体験談です。家族が久しぶりに風邪を引きまして。友達から風邪かインフルエンザかを貰ってきたらしいです。これは私もちょっとまずいな・・・と慌ててマスクをしたのですが。

数日後、急に背筋に悪寒が走りました。「あっ、これは来た・・・」服を着ていても寒いです、あと妙に尿が近くなる。1時間に1回トイレに走りますと、清澄な尿がジャァーッと出ます。漢方ではこれを表寒実、風邪の起こり始めと考えます。葛湯を飲んでも寒さは治らない。熱を測ると37.5度でした。

こんなときにどんな漢方薬を服用したのか、といいますと「麻黄湯+○○○+板藍茶」、風邪のウイルスに対抗して発散する処方です。さらに、みどりのどん兵衛を買って熱湯をかけて食べました。夜半にさらに葛根湯+地竜エキス末+板藍茶を投入。生姜湯も併せて服用です。

翌日の午前中は少しだるかったですが、午後からは寒さも消えて楽になりました。その後は「△△△△△△+柴胡桂枝湯」をしばらく服用して終了です。このように、漢方では初期のうちに治すことができる、これが利点です。常備薬として小分けもしております、ご相談下さい。

予防につかえる?!

[st-kaiwa5]先生、麻黄湯は予防薬として使えますか?![/st-kaiwa5]

40代のママさんから、こんな質問をいただきました。大学受験の息子に飲ませてみたい、とのことです。受験生は冬が本番ですから、麻黄湯で予防できるなら・・・という気持ちも分かりますが、麻黄湯は予防薬にはなりません。

もし麻黄湯で予防できた、というならば、きっとそのときはゾクゾクと風邪の引き始めだったのでしょう。漫然と飲むのはお勧めしません。

当薬局の場合ですが、予防方法としては、板藍茶・板藍のど飴などをお勧めしています。twitterなどで人気らしく、買いに来ていただける方も増えました。

[st-card id=1137 label=”” name=”” bgcolor=”” color=”” readmore=”on”]

ただ、それでも飲んでおけばOK!というわけでなく「手洗い・うがい」そして、しっかりよく寝る。こうした健康管理が大切だと思っています。受験生の皆様、頑張ってください。

参考文献

  • 漢方業務指針 日本薬剤師会編集
  • 漢方の君臣方剤学 愛新覚羅啓天
  • 中医臨床のための方剤学 神戸中医薬研究会

[st-mybox title=”メモ” fontawesome=”fa-file-text-o” color=”#757575″ bordercolor=”” bgcolor=”#fafafa” borderwidth=”0″ borderradius=”5″ titleweight=”bold” fontsize=”” myclass=”st-mybox-class” margin=”25px 0 25px 0″]

麻黄湯について書きましたが、同じような時期に使う処方でも、葛根湯、柴葛解肌湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯と色々とあります。状況が違えば全く効果が無いとはいいませんが、うまく使っていきたいモノです。

[/st-mybox]

*1  ツムラ漢方スクエア←医療関係者向けのサイトです
*2 【論文1】Wang C, et al:Oseltamivir compared with the Chinese traditional therapy maxingshigan-yinqiaosan in the treatment of H1N1 influenza: a randomized trial.Ann Intern Med.2011;155:217-25. PMID:21844547

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

漢方を専門に学ぶ薬剤師。大学卒業後、東京・高知の漢方薬局にて漢方を研鑽。漢方薬局の二代目として大阪に戻る。このサイトでは、身近な漢方であるようにと「分かりやすい言葉」で説明するように心がけています。

目次