しゃっくりとは?
しゃっくりは、横隔膜がけいれん的に収縮して「ヒック」と声が出る現象です。多くは自然に治まりますが、頻繁に繰り返したり長く続いたりする場合は、体調不良や病気のサインであることもあります。店頭にご相談いただく方では、抗がん剤など病院での処方薬によるもの、透析中や入院中で体調の変化や環境のストレスによる方もおられます。
漢方ではしゃっくりは「吃逆(きつぎゃく)」「噦(えつ)」と呼び、胃や横隔膜の気の流れが乱れた状態として理解します。
漢方的にみたしゃっくりの原因
漢方ではいくつかのタイプに分けて考えています。代表的なタイプを記載します。
- 胃寒タイプ(胃の冷え)
冷たい飲食や冷えが原因で胃の働きが弱まり、気が逆流してしゃっくりが出る。 - 痰飲タイプ(水の停滞)
水分代謝が乱れ、痰や水が胃に停滞し、横隔膜を刺激してしゃっくりが出る。 - 気逆タイプ(ストレスや胃の張り/胃気上逆)
ストレスや暴飲暴食で気が滞り、胃や横隔膜に張りやつかえ感とともにしゃっくりが出る。
主な漢方処方と特徴
よく使われる漢方の処方です。これ以外に色々とあります。
処方 | 適応タイプ | 主な生薬 | 作用・特徴 |
---|---|---|---|
柿蒂湯(していとう) | 胃寒タイプ(冷えで起こるしゃっくり) | 柿蒂・生姜・丁子 | 胃を温めて気の逆流を抑え、しゃっくりを鎮める。基本処方。 |
呉茱萸湯 | 胃寒タイプ(冷えで起こるしゃっくり) | 呉茱萸・生姜・人参・大棗 | |
大柴胡湯 | 胸脇のつかえ・胃の張り・便秘傾向がある体力中等度以上 | 柴胡・黄芩・半夏・枳実・大黄・生姜・芍薬・甘草・人参 | 気の流れを整え、停滞や熱を下ろす。 |
芍薬甘草湯 | 横隔膜のけいれんが強いしゃっくり(別の処方と併用することが多い) | 芍薬・甘草 | 横隔膜や筋肉のけいれんを和らげる。痙攣性しゃっくりに応用。 |
半夏厚朴湯 | のどのつかえ感(梅核気)、痰のからみを伴うしゃっくり | 半夏・厚朴・茯苓・蘇葉・生姜 | 気を下げ、痰やつかえ感を改善。 |
四逆散(しぎゃくさん) | ストレスで胸脇が張り、しゃっくりが続くタイプ | 柴胡・枳実・芍薬・甘草 | 肝気鬱結をほぐし、気の流れを調える。 |
コタロー ネオカキックス(柿蔕湯)
柿蔕湯(柿蔕・丁子・生姜)は胃を温めてしゃっくりを治す処方です。煎じる場合は、柿蔕15g、丁子1.5g、生姜4gで作りますが、加減する場合もあります。からだの元気が無い場合は、さらに人参(薬用人参)を少量加えて丁香柿蔕湯(ちょうこうしていとう)という処方にします。
「苦いからびっくりしてしゃっくりが治る」という俗説もありますが、ある文献ではヘミセルロース質が胃の中で凝固してその作用でしゃっくりを止めるという記載もあります。
柿蔕 性味:苦・渋・平 帰経:胃
丁子 性味:辛・温 帰経:肺・胃・脾・腎
生姜 性味:辛・微温 帰経:肺・脾・胃
中医臨床のための中薬学より
しゃっくりが続くと腹痛(腹部の筋肉の使いすぎですね)を起こしやすく、芍薬甘草湯を併用すると楽になることも多いです。その他、橘皮竹茹湯、半夏瀉心湯、呉茱萸湯、茯苓飲なども使うことがあります。
柿のヘタ

柿のヘタ・・・も民間薬として有名です。「柿蔕(してい)」といいまして、意外と効果があります。

西洋薬での対応
しゃっくりが長引く場合、西洋医学では次の薬が使われることもあります。
- 制吐薬(メトクロプラミドなど)
- 筋弛緩薬(バクロフェンなど)
- 中枢作用薬(クロルプロマジンなど)
クロルプロマジン塩酸塩のみ保険適用があります。薬の使用は必ず医師の指示に従ってください。西洋薬については、メトクロプラミド(プリンペラン)を使っていた患者さんもおられました。日経ドラッグインフォメーションに記載がありました。
中枢性筋弛緩剤のバクロフェン(商品名ギャバロン、リオレサール)をよく使用する。多くの場合、10~15mg/日から開始し、3日ごとに効果を見ながら適宜増量していく。中略 しゃっくりの薬物療法で使われる薬剤はいくつかあり、メトクロプラミド(プリンペラン他)、クロルプロマジン塩酸塩(ウインタミン、コントミン他)、クロナゼパム(ランドセン、リボトリール)、芍薬甘草湯、呉茱萸湯、柿蒂散などがある。 日経ドラッグインフォメーション2016.04PE021より抜粋
赤ちゃんのしゃっくり
母乳を飲んでいる赤ちゃん。赤ちゃんは、しゃっくりを起こしやすく「母乳を飲むたびにしゃっくりをする」というご相談もあります。「何か病気ですか?」とも聞かれますが、特に、問題はありません。ちょっとだけ、母乳をあげたりすると自然と治まります。大きくなったら自然にしゃっくりをしなくなります。
しかし、あまりに長く続く場合は、お母さんとしても見ているのが辛いようで。その場合はネオカキックスをぬるま湯に溶いて、少しずつ服用していただきます。漢方で言えば、脾胃が弱い場合が多いので、将来的には小建中湯を飲んでおいてくださいねーとお伝えすることが多いですね。
注意事項
長引くしゃっくりは要注意:消化器・神経疾患や薬の副作用が隠れていることもありますので、1~2か月と続く、しゃっくりがひどくて眠れない、なら病院を受診をしてください。
まとめ
しゃっくりは一時的なものであれば問題ありませんが、繰り返したり止まらない場合は体からのSOSかもしれません。
漢方ではタイプに応じて、
- 冷えによるしゃっくり → 柿蒂湯・呉茱萸湯など
- 胃の張りやけいれん → 大柴胡湯+芍薬甘草湯
- のどのつかえ感を伴う → 半夏厚朴湯
- ストレス性 → 四逆散・開気丸・加味逍遥散
などを組み合わせて考えていきます。ご相談ください。