ストレスによる気の滞りを改善する柴胡疎肝湯(さいこそかんとう ※柴胡疏肝湯)は効能効果として「痛みの改善」と書かれています。が、それ以外の症状でも活躍できる名処方柴胡疎肝湯(さいこそかんとう)について、そのベースとなる「四逆散」との違いを交えながら、専門的かつ分かりやすく解説します。
効能効果
柴胡疎肝湯と四逆散の違い
添付文書の効能効果を見てみましょう。類似の四逆散と比較してみました。
| 処方名 | 効能効果 |
|---|---|
| 柴胡疎肝湯 | 体力中等度で、胸腹部に重苦しさがあり、ときに頭痛や肩背がこわばるものの次の諸症:腹痛、側胸部痛、神経痛(松浦製薬 添付文書) |
| 四逆散 | 比較的体力のあるもので、大柴胡湯証と小柴胡湯証との中間証を表わすものの次の諸症:胆嚢炎、胆石症、胃炎、胃酸過多、胃潰瘍、鼻カタル、気管支炎、神経質、ヒステリー (ツムラ) 体力中等度以上で、胸腹部に重苦しさがあり、ときに不安、不眠などがあるものの次の諸症:胃炎、胃痛、腹痛、神経症(救心) |
比較すると、柴胡疎肝湯=痛み 四逆散=消化器疾患 と効能効果は全く違うものになっていますね。けど、使い方はとても似ているんですよ。
どちらも基本骨格は同じ処方(柴胡・芍薬・枳実・甘草)です。使い方ももちろん似ていて、ストレス・神経症状が原因となった痛み・胃腸の不調・炎症に用います。処方構成から考えると「柴胡疎肝湯は四逆散に気を巡らす働きが強化されたもの」と考えるとよいでしょう。

漢方理論において、「肝」は疏泄(そせつ:気をスムーズに巡らせる機能)を司ります。しかし、過度なストレスや情緒の抑圧を受けると、この疏泄がストップして気が停滞します。これを肝気鬱結(かんきうつけつ)と呼びます。
この「気の停滞」は時限爆弾のようなもので、溜まると①少陽経の経絡が停滞しはじめ胸脇部の違和感に②脾胃を押しやって機能低下を引き起こす→この溢れた気・停滞した気が「いらいら、気鬱、不眠、過緊張、心窩部の痞え、胃痛や膨満感」などに③気の停滞が進むと血の滞りにつながり(気滞血瘀)、末端まで血が行き届かず、温煦ができなくなることで「手足の冷え」に繋がります。
気の停滞による膨満・痛みは、膨らました風船がギュッっとなるイメージ、「重苦しい・脹ったような痛み」ですが、血(けつ)」の流れまでもが悪くなると・・・。単なる不快感から「刺すような痛み」や「固定性の痛み」へと変化していきます。
柴胡疎肝湯は「肝気鬱結」が進行し、胸脇(胸や脇腹)に張痛が起こり、さらに血(けつ)にまで影響が及び始めた段階に最適な処方とされています。

| 柴胡疎肝湯(さいこそかんとう) | 四逆散(しぎゃくさん) | |
|---|---|---|
| 病態 | 肝気鬱結・気滞血瘀 | 肝脾不和・陽鬱 |
| 傾向 | 胸脇の張痛(はっきりとした痛み)、イライラ | 手足の冷え、軽い腹痛、緊張しやすい |
| 作用 | 四逆散に加えて、活血と止痛作用がある | 気の巡りがメイン |
| イメージ | 「鬱憤が溜まって痛む体」を流す | 「緊張で固まった体」をほぐす |
柴胡疎肝湯の構成
この処方の狙いは、「肝の気の渋滞を解消し、同時に血の巡りも整えて痛みを止める」ことにあります。柴胡疎肝湯の処方の構成を見てみると、四逆散(柴胡・芍薬・枳実・甘草)を基本骨格として川芎・香附子・青皮を加えた処方です。
柴胡疎肝湯:柴胡・芍薬・枳実・甘草・青皮・香附子・川芎
柴胡+芍薬の組み合わせはストレスや緊張を楽にする作用があります(疎肝作用)。枳実+芍薬で腹部臓器の蠕動の異常な亢進を抑え平滑筋の痙攣を鎮め、運動を調整します。柴胡疎肝湯は、川芎を引経薬・活血として、香附子・青皮を理気薬として加えています。
君薬(主役):柴胡 肝経の「風」を散じ、疏泄を助けるリーダーです。
臣薬(脇役):香附子・枳実 香附子は「理気薬の総帥」と呼ばれ、柴胡を助けて精神的な鬱滞を解きます。枳実は、さらに下方向へ気を突き動かし、張りを解消します。
佐薬(サポート):川芎・芍薬・陳皮 ここが四逆散との違い。川芎は「血中の気薬」であり、気の滞りからくる血行不良をダイレクトに改善します。川芎は上昇・外向・下降と全方位に作用し、頭痛から月経痛まで幅広く対応する「止痛の要」として紹介されています。芍薬は肝を養いつつ、甘草との組み合わせ(芍薬甘草湯の意)で筋肉の引きつりや痛みを和らげます。
使薬(調整):甘草 全体のバランスを整え、薬性をマイルドにします。

柴胡疎肝湯の症例(口コミ)
60代 170cm 60Kg 男性、不眠・不安感が強い。身内の不幸などが続き将来に対して悲観的。仕事(ディスクワーク)をしているときはまだマシだが、一人になるとイライラが続く。
胃腸の膨満感が強い。左脇のあたりに痛みが続く(本人は捩ったという)。血圧は高く、1日5~6回ほど測定してメモしている。眠りが浅く、気になることがあればなかなか眠られない。睡眠薬は昔使ったがだんだんと量が増えてきたため、現在は控えている。
内科で○○○○○を処方されたが、逆にしんどくなったので・・・というご相談です。男性の場合、友達とワイワイ発散する機会もないため、自覚するしないに拘わらず、ストレスをため込んでいる方が多いです。柴胡疎肝湯+○○○○○という処方を加えて、寝る前には○○○○○○という処方をお勧めしました。
「イライラがね、そんなにしなくなってね、だんだんとなんとかなるって思うようになったよ」そんなお電話もいただきました。脇腹の痛みについて聞いてみると、全く感じなくなったとのこと、当時はハリが強かったらしいです。
胸・脇のあたりが痛い(胸脇苦満)
脇のハリ、これは漢方では「胸脇苦満(きょうきょうくまん)」といって、気滞の目安になります。
細野先生のお言葉では、
「胸脇苦満の腹候とは、肋骨弓下部の圧痛、抵抗である。ただしこの圧痛は必ず胸中にこたえるような性状を帯びることが必須条件である(後略)」 胸脇苦満を語る1 細野史郎先生 日本東洋醫學會誌 1965年16巻2号
肋骨弓下部とは、肋骨の下に沿って左右に流れる部分です。ストレスが強い方には、なんとなくそのあたりや脇のあたりが痛い、張りを感じる、不快に感じる方は多いです。
ただ、気滞であっても、胸脇苦満は左右両方・片側だけ・無い場合もありますので、問診や舌診と併せて検討します。
ストレスから起こる気の停滞、肝気鬱結によって上記のような症状が出ますし、さらに発展すると他の臓腑にも影響を与えます。五行で考えると『木克土』で、肝が脾胃を痛めつける構図です。これを肝の気がブワッと膨脹してくるイメージで「肝気横逆」といいます。
具体的には、胃の痛みや食欲不振、腸が張り、下痢を起こしたりします。原因が気滞ですから柴胡疎肝湯をメインにして考えるといいでしょう。
手足の冷えが強い
四逆散の「四逆」は「四肢の冷え」も意味しています。店頭で冷え性の相談があったけれども、色々な処方を使ってすっきりしない。ストレスによって肝気が鬱結して末端まで陽気が通わないことで手足が冷たくなります。服用している処方に、四逆散や柴胡疎肝湯を足すと楽になります。
加味逍遙散と柴胡疎肝湯
さて、ストレスの処方といえば加味逍遙散はとても有名です。構成生薬を記載してみました。
| 処方名 | 基本骨格 |
|---|---|
| 柴胡疎肝湯 | 柴胡・芍薬・枳実・甘草 川芎・香附子・青皮 |
| (加味)逍遙散 | 柴胡・芍薬・甘草 蒼朮・当帰・茯苓・生姜・薄荷(山梔子・牡丹皮) |
上下で比べていただくと基本骨格は一緒で、当帰や茯苓など養血・健脾が含まれていることが違います。
| 処方名 | 効能効果 |
|---|---|
| 加味逍遙散 | 体力中等度以下で、のぼせ感があり、肩がこり、疲れやすく、精神不安やいらだちなどの精神神経症状、ときに便秘の傾向のあるものの次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症注)、不眠症 |
逍遙散も柴胡疎肝湯も四逆散の兄弟ですが、気滞→脾虚→血虚で「負のサイクル」を回しているタイプに使うのが逍遙散です。こうした負のサイクル、脾虚血虚という原因を断ち切らないと精神不安や苛立ちを繰り返します。
ざっくりとですが、不安感が次々とわき上がっては消えていくのは加味逍遙散、一つのことに怒りを持続できるのは柴胡疎肝湯と使い分けています。
柴胡疎肝湯の代替処方
柴胡疎肝湯が手元にない場合は四逆散+香蘇散(蘇葉・香附子・陳皮・生姜・甘草)の組み合わせで使っています。頭部の緊張や首凝りなら四逆散+川芎茶調散(香附子・川芎・羗活・荊芥・薄荷・白芷・防風・甘草・茶葉)という組み合わせも良いでしょう。
柴胡疎肝湯は使い始めると、思ったよりも応用範囲の広い処方です。効能効果の「痛み」の文字に気をとられがちですが、四逆散の代用として神経症・ヒステリーにも使えますし、不妊関連で月経痛、帯状疱疹後疼痛に併用する例もあります。

よく似た処方名
柴胡疎肝湯
長い年月をかけて発展してきた処方ですから、同じ名前でも違った処方内容が存在します。現在『医学統旨』を元にした柴胡疎肝湯が製品になっています。それ以外有名な物として、煎じ薬として使われているものに『張氏医通』『一貫堂』の処方も存在します。
| 処方名 | 処方内容 |
|---|---|
| 医学統旨 柴胡疎肝湯 | 柴胡・芍薬・枳実・甘草・青皮・香附子・川芎 |
| 張氏医通 柴胡疎肝湯 | 柴胡・芍薬・枳実・甘草・青皮・香附子・川芎・山梔子・乾姜 |
| 一貫堂 柴胡疎肝湯 | 当帰・川芎・芍薬・地黄・桃仁・牡丹皮・柴胡・桂枝・枳殻・紅花・青皮・甘草・大黄・芒硝 |
参考:漢方一貫堂医学 矢数格先生
柴胡疎肝散
似た処方名ですが、柴胡疎肝散があり、参考書での記載を見ることがあります。湯と散の違いですが、柴胡疎肝散は四逆散に川芎・香附子・(陳皮)を加えた処方で、青皮が抜けています。日本では製品化されていません。※柴胡疎肝散の処方(組方)は国家中医药管理局中医药名词术语成果转化与规范推广(Buidu百科)より引用しました。
| 柴胡疎肝湯 | 柴胡・芍薬・枳実・甘草・青皮・香附子・川芎 |
| 柴胡疎肝散 | 柴胡・芍薬・枳実・甘草・青皮・香附子・川芎・山梔子・乾姜 |
| 柴胡疎肝散 | 柴胡・芍薬・枳実・甘草・ ・香附子・川芎・陳皮 (Buidu百科) |
| 疎肝湯 | 柴胡・芍薬・枳実・ ・青皮・ ・川芎・黄連・呉茱萸・桃仁・紅花・当帰 |
柴胡疎肝湯のメモ
柴胡疎肝湯は松浦薬業と小太郎漢方製薬の製品を取り扱っています。

| 商品名 | 柴胡疎肝湯エキス細粒G「コタロー」 |
|---|---|
| ジャンル | 第二類医薬品 |
| 内容量 | 90包入り |
| 商品単価 | 12000円(税抜き) |
| ポイント | 体力中等度で,胸腹部に重苦しさがあり,ときに頭痛 や肩背がこわばるものの次の諸症:腹痛,側胸部痛,神経痛 |
| 販売元 | 小太郎漢方製薬株式会社 |
| 摂取方法など | 1日3回、1回1包 |
