小柴胡湯(しょうさいことう)はこんな処方です

本場よりも日本で応用されている処方に「小柴胡湯」があります。大柴胡湯に比べて効果が穏やかなので「小」柴胡湯なのですが、それでも力が強く、効果がある処方です。

目次

小柴胡湯の効能効果

小柴胡湯のベストチョイスは「風邪」。しかも漢方での「半表半裏症(少陽病)」というごく短い時期にはすごく効きます。聞き慣れない単語ですが「病邪が侵入し始めたときからやや時間が経って、ただそれほど悪化もしていない時期」。

小柴胡湯 効能効果:
体力中等度で、ときに脇腹(腹)からみぞおちあたりにかけて苦しく、食欲不振や口の苦味があり、舌に白苔がつくものの次の諸症:
食欲不振、はきけ、胃炎、胃痛、胃腸虚弱、疲労感、かぜの後期の諸症状(ツムラ小柴胡湯より)

この時期には「往来寒熱(おうらいかんねつ)」という状況が起きます。これもまたややこしい単語ですが(^-^;;;;体験するとすぐ判ります。『ゾクゾクとした風邪を引いて3日ぐらい。なんだか身体がだるくて仕事を休んで家で寝ているとき。寒いなーゾクゾクするなと思って布団を被っていたけれども急に暑くなって布団を脱いでしまう。またしばらくして寒くなる・・・・』言われてみればときどき体験しますよね。

寒さと暑さは同時に来るわけではなく「交互」にやってきます。これは病邪と正気(からだの元気)が綱引きをしている状態で、小柴胡湯はこの綱引きを解消してくれる処方です。もし、邪気が勝ってしまったらしばらく寝込むことになります(^-^;;;

邪気が少陽(経絡の流れ)を犯し経気が滞ることで、胸脇苦満(きょうきょうくまん)という状況も起きます。場所はベルトの少し上のあたり、脇から腹部にかけて。昔で言えば「帯を締める」辺りですね。ここが何となく重苦しい感じがします。

肋骨の一番下のあたりをグリッと押すと鈍い痛みのような緊張感があります。少陽の熱が胃を犯したり上炎することで「発熱・口が苦い・悪心・嘔吐・食欲不振・喉の渇き・めまい」など肝胆・脾胃の症状が見られることがあります。

小柴胡湯を使った症例

風邪

35歳男性、風邪を引いて数日。「近隣のドラッグストアで葛根湯を服用していたが効果が無い」ということで来局。風邪を引いてもすぐに治るはずなのに、今回ばかりは治りきらない。急に寒くなることがある(時期は夏)。汗も出る。体がだるい。咳が時々酷くゴホゴホと続く。朝起きると口が苦い。仕事のため毎日出勤はしないと行けないが、なんとか体のだるさを改善して欲しい、と相談。この場合は「小柴胡湯+五虎湯」にてお勧めしたところ、2~3日で改善したとお電話がありました。

原発性陰嚢内硬化性脂肪肉芽腫

30代男性「陰部にブヨブヨしたのがあります」と相談。こちらにリンクしています。

C型肝炎のだるさ

少し前まではC型肝炎、とても治りにくい病気でした。その当時、小柴胡湯は病院で証を見ず乱用され、副作用が出たというニュースもありました。副作用だけか、というと、C型肝炎に小柴胡湯を使った場合、良く効いて楽になった例も多かったはずです。

もう10年ぐらい前ですが、C型肝炎の50代の女性、病院で経過観察中だが身体のだるさが強く辛いというご相談がありました。血液検査数値を見せて貰うと、徐々に肝数値が上昇しているんです、ただ、まだ境界あたりで「治療域」には入っていない。5年ぐらい経過観察が続いているとのことでした。

そこで、小柴胡湯+逍遥散加減を処方、2ヶ月後には「何とも言えないだるさが楽になった」と喜ばれました。漢方は続けていたのですが、悪化したときに病院での治療をお勧めしました。

当時の病院では「インターフェロン(免疫を賦活する処方)」など副作用の強い処方しかありませんでしたが、今なら病院で生物学的製剤(オプジーボなど)での治療をお勧めしつつ、漢方では身体を補う処方でお勧めするだろうな、と考えています。

処方を詳しく(小柴胡湯)

柴胡と黄芩によって少陽の鬱熱を清する処方です。全体的な袪邪と共に、正気にも配慮しつつ、和胃にも働くバランスの良い処方です。

小柴胡湯 柴胡・半夏・黄芩・大棗・人参・甘草・生姜

小柴胡湯は病邪を治療する「八法」のうち和法、和解剤と呼ばれます。漢方を学習し始めた当初は、和法・・・の意味が「病気と調和する」「陰陽のアンバランスを調和する」(邪気も調和する必要があるの?!)とよく解りませんでしたが(^-^;;;; 今は「煙をうちわで扇いで散らす」ようなイメージかなと納得しています。

和法:和法とは和解或いは調和の作用によって病邪を消除する治法である。汗・吐・下の三法のように抗邪を主体にするものでは無く、補法のように補益を主体するものでも無い。[中医臨床のための方剤学]
小柴胡湯:「上焦は通ずるを得、津液は下るを得、胃気よりて和し、身にしゅう然と汗出て解す」の効果が得られ、汗・吐・下によらず邪を除くので和解と称する[中医臨床のための方剤学]

 

小柴胡湯の応用範囲

小柴胡湯は炎症性の症状に効果があります。書籍や臨床例には色々と記載がありますが、肝胆・脾胃の改善には効果があると感じます。ただ、他の処方を併用する場合も多いです。

風邪、インフルエンザ、肝炎、胆嚢炎、胃炎、食道炎、気管支炎、咽頭炎、扁桃腺炎、中耳炎、腎炎、腎盂炎、膀胱炎[漢方のエッセンスより]

例えば、不妊症などでよく使われている柴苓湯は、小柴胡湯と五苓散の合包です。日本東洋医学学術総会(61th)では、「月経不順を伴った不妊症に対する柴苓湯の有効性について」といった論文も出ていますし、免疫調整能力などもあるのかなとは思います。ただ、症状や体質にあわせて、用いることが大切です。

小柴胡湯は、傷寒論から出たもので有り、最も世の中に知られた名方である。特に経方派の臨床家はよく使用している。小柴胡湯の治療について論じるとき、傷寒学者、或いは中医学者は通常、本方が少陽半表半裏の邪を和解し、少陽病を治療する主な処方であると認識している。方剤学では例外無しに和解剤の中に入っており少陽を和解する代表処方として紹介され小柴胡湯に対するこのような見方は既に定着している。しかし、このように小柴胡湯の効果を論説することによって実は張仲景の原意が大いに狭められており、さらに小柴胡湯が他の多くの効能を発揮することの妨げになっている。[臨床力を磨く傷寒論の読み方]

長期的に小柴胡湯だけを使用するものでは無く、時期が来れば他の処方にスライドしていくのが良いでしょう。

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この記事を書いた人

漢方を専門に学ぶ薬剤師。大学卒業後、東京・高知の漢方薬局にて漢方を研鑽。漢方薬局の二代目として大阪に戻る。このサイトでは、身近な漢方であるようにと「分かりやすい言葉」で説明するように心がけています。

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